準備
ほうきとちりとり、バケツが用意された広場では、中央と右手にある槽の覆いを取り、中に残っている土を取り除く作業が始められました。
乾燥しきってパリパリの状態になっているものも、底に残ったまだ水分を含んだものも、すべてきれいに取り出され、バケツの中へ。この土はまた攪拌を行う槽の中に戻され、再利用されます。
一方、水簸後の土が入った槽では、ポンプで上澄みを汲み上げていました。
蓋を開けると、沈殿していた赤茶色のきめ細かな土が姿を現します。
そこへ幅の広い滑り台のような道具が運ばれて設置されました。
不純物を取り除き、土の層を均一にする
長靴から胸当てまでがひとつなぎになった作業着(「チェストハイウェーダー」「胴長靴」などと呼ばれる、渓流釣りや水田での作業など腰まで水につかるような作業のための防水素材で作られたアイテム)に着替えた陶工たちが、次々と土の海の中へ!いよいよ土出しの始まりです。
ねっとりとまとわりつく土の海の中を、大きな歩幅で膝を持ち上げるようにして歩く陶工たち。
上の方には水分が多く、下に行けば行くほど粘度が高くなっているため、攪拌して均一に近づけているそうです。ざるで表面に浮いた不純物なども取り除きながら、15分ほどこの作業が続けられました。
バケツで汲み出し、乾燥用の槽へ流し込む
攪拌作業が終わると、陶工たちがバケツを手に土を汲み出し、先ほどの滑り台状の道具を使って乾燥用の槽へ移していきます。木製スクレイパーで台に残った土を流すのは脇についている陶工の役目。
流し込まれた土は、両側に紐をつけた角材を移動させることで槽の中に均一にならされていきます。
電力や機械は一切使わない作業。
底に近づくにつれ、土は粘度を増してますます重く、流れにくくなっていくのが見ているだけでもわかるようでした。また、バケツで汲み上げられない量に減ってくると、奥から手前へ土を集めてくる作業も加わります。
時折水分補給を兼ねた休憩や役割交代をはさみつつ、1時間半ほどで土の海だった槽はこの状態に。
乾燥用の槽にはなみなみと土がたたえられています。
壁面や底に残った土はちりとりや手で丁寧に集め、バケツに入れて直接運びます。槽の中に残された陶工たちの手の軌跡。限界まで土を集めた様子がおわかりいただけるでしょうか。
乾燥・保存を経て、土練機(どれんき)へ
使われた道具や作業着は水簸場(すいひじょう)で洗います。無駄を出さない方法は水簸の時と同様です。
この後、前回の記事でお伝えした乾燥・保存の過程を経て、北窯の土づくりで初めて機械で行う作業が登場します。
土練機は、漢字の意味そのままに土を練る機械。むらをなくし均一に練るため、3回ほどは土練機を通すそうです。最後には土の中の空気を抜くため(空気が残っていると焼成の際に膨張して割れやひびの原因になるそうです)真空土練機にかけ、各工房へ。
陶工の手で菊練り(きくねり/陶土の中の空気を抜き、粒子を一定の回転方向に向けて作品を作りやすくする土練り作業。菊の花びらのような模様ができることからこう呼ばれます)という最終段階を経て、ようやく陶土として完成します。
おわりに
土出しの様子、いかがだったでしょうか。
底に近づけば近づくほど密度が増し、汲み上げるバケツや道具、陶工たちの体にまとわりついていく土。水簸以上に、見ているだけなのが申し訳なく感じる作業です。
みるみる土の色一色に染まっていく世界をカメラのファインダー越しに眺めながら、こんな過程の上に生まれるやちむんが受け継がれていること、それを日常生活で使えることの豊かさを改めて感じました。
これだけの作業が、準備と後片付けを含め何と約2時間で終了してしまうことにも驚くばかり。陶工たちのチームワークと集中力、モチベーションの高さには本当に頭の下がる思いです。
次回からは窯修理編へ。なかなか見ることのできない大規模な登り窯の修理の様子を7回にわたってまとめます。登り窯はどのように作られるのか、また、内部構造はどうなっているのか。袋と袋を仕切る壁、屋根のアーチの組み方まで、一からお目にかけたいと思います。どうぞお楽しみに。
これまでの読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り
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