前回までのおさらい
「読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り」。数か月にわたって沖縄県読谷村のやちむん(焼きもの/陶器)の里、読谷山焼・北窯にお邪魔し、土作りや登り窯の修繕作業などの取材記録をもとに、沖縄の生活になくてはならない日常の器に隠された物語をお伝えしています。
第3回の記事では、炎をくぐり、かたちになったやちむんが取り出される窯出しの様子をご覧いただきました。
詳しくはこちら
第4 回からは、土づくり編へ。3回に分けて、やちむんのもととなる粘土・陶土(とうど)ができるまでを追いかけてみたいと思います。
北窯の土づくり
喜瀬(きせ)、為又(びいまた)、屋嘉(やか)、谷茶(たんちゃ)、前兼久(メーガニク)、沖縄本島北部各地の地名が書かれた札の下にある赤土が原土(げんど/土)と呼ばれる陶土の原料。
やちむんに使われる赤土は読谷村以北でしか産出されず、その土地によって性質が違います。
陶土を作るのに機械を使ったり、業者から仕入れたりする場合が多い中、7か所の原土を使っての配合からほとんどの工程を手作業でこなしている北窯。
- 原土と水を混ぜる
- ふるいにかけ、槽に移して沈殿させる
- 水を除いた土を取り出し乾燥させる
- 寝かせ、練り上げる
言葉にすればたった4行。そこにかけられる労力と時間はなかなか想像しづらいかと思います。いったいどんな作業が行われているのか、まずは水簸(すいひ)と呼ばれる作業からご覧ください。
水簸(すいひ)とは?
採取した原土(げんど/山などから運んできた土)を水で攪拌し、草や小石などのごみや異物を取り除き、ふるいで濾過して陶土に精製する方法のひとつ。
さらに詳しく
「水簸」は粒子の大きさによって水中での沈降速度(沈む速さ)が変わることを利用し、粒子の大きさ別に分ける方法全般を表すもので、砂金を採集する場合などにも用いられるということです。
「簸(ひ)る」とは、収穫した穀物を箕(み/竹や植物のつるなどで編んだ塵取りのような形の農具)に入れ、あおりながらふるうことでごみやもみがらなどを取り除くことを指しました。そこから、水を使い、沈降速度を利用して余分なものを取り除き、粒子をより分けることを「水簸」と呼ぶようになったようです。
水簸の工程
水簸を行うのはこちら。手前に槽が3つ並んでいます。主に左側と中央の二つを使い、蓋がされている右端は貯水槽のような位置づけでした。
長い板に把手のついた道具を使い、土と水を混ぜていきます。
槽の近くに山盛りになっているのは、その大半が高台(こうだい/皿、茶碗などの底にある、接地面となる低い脚の部分)を作る際に出る土。北窯ではこれを削り出して作るため、最初に成形したものから約4割の土が削られているのだそうです。それに加え、成型し、乾燥させた時にひび割れてしまったものなども混じっています。
今回の水簸ではまずこれらを使い、再利用するということでした。大きなかたまりになっているものは溶けにくいので、ハンマーで叩いて細かくしてから投入します。
通常は配合に従って土置き場から土を運んでくる作業が必要です。
土を投入したら、先ほどの板で底からすくい上げるようにして攪拌していきます。粘りのある土なので、見ているだけでその重さ、抵抗感が伝わってきました。ざるで溶け具合を確かめながら、数十分作業が続きます。
実際の攪拌作業はこちらの映像をご覧ください!
しっかりと攪拌した後、ポンプで水ごと吸い上げ、不純物を二重のざるで取り除きながら大きな槽へ移します。
出てくる水の勢いが強かったり、不純物が多い場合などはあふれてしまうこともあり、気が抜けない作業です。
実際に不純物を取り除く作業はこちらの映像をご覧ください!
ポンプも入れっぱなしというわけにはいかず、高さを調節しつつ、草や小石、下層にたまっている土などが詰まらないよう気をつけなければなりません。効率を上げるため、バケツなどを使う場面もありました。
底が見えてきました。ぎりぎりまで水を汲み上げたら、また水と土を投入し、同じ作業を繰り返します。場合によっては、槽の中に残った土を踏んで溶けやすくする作業が加わることも。
水簸作業は4つの工房が1日ずつ交代で行っています。1日の作業は、使った道具や作業場をきれいにすることで終えられていました。道具を洗うのは水簸を行っている槽の中や近くで。周囲にこぼれた水も土も、できる限り槽の中に戻されます。
徹底して無駄を出さず、次の日の作業がしやすいよう場を整える。ひとつひとつに、たくさんの経験と知恵の積み重ねを感じます。
槽に流し込まれた水は、年末年始のお休みの間に上澄みと土の層にきれいに分かれていました。この後、土を出して乾燥させるのですが、その様子は次回、お目にかけたいと思います。
おわりに
水簸が行われていたのは、年末年始の12月終盤と1月初旬。温かい沖縄とはいえ、天気が悪く北風が冷たく吹きつける日もあります。頭から爪先まで、言葉通り泥まみれになりながらの水簸。見ているだけ、写真を撮るだけの自分が申し訳なく感じるような、大変な作業でした。
また、最後には必ず丁寧に道具を洗い、場を整える様子も印象的でした。近年では土づくりから手掛ける窯元はとても少なくなっているようです。
前述の通り、北窯では原土の配合から行っています。新しく土が届いたときには、10種ほど調合を試し、実際に絵付けして登り窯で焼いてコンディションを確認し、最終的な調合を決定するそうです。
伝統の中で積み上げられてきた知恵や文化を受け継ぎたいという思いや、沖縄の土を使ってこそのやちむん、というこだわり。人と人とのつながりを大切にし、協力し合ってものづくりを進める姿勢。懸命に働く陶工たちの姿は、たくさんのことを伝えてくれているように感じました。
次回は土づくり編、水簸された後の陶土の乾燥の様子をまとめます。ずらり並んだ瓦の吸水性と太陽の熱を利用したとても合理的な方法には目をみはるばかり。そして、何とキャッチボールも見られるなかなか興味深い過程なのです。ぜひ、ご覧ください。
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