前回までのおさらい
第5回となった「読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り」。数か月にわたって沖縄県読谷村のやちむん(焼きもの/陶器)の里、読谷山焼・北窯にお邪魔して土作りや登り窯の修繕作業などの取材をさせていただいた記録をもとに、沖縄の生活になくてはならない日常の器に隠された物語をお伝えしています。
第4回の記事では、北窯ではほぼ手作業で行われているやちむんのもととなる粘土・陶土(とうど)づくりの第一段階、原土と水を混ぜ、ふるいにかけ、槽に移して沈殿させる水簸(すいひ)と呼ばれる一連の作業をご覧いただきました。
詳しくはこちら
読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【土づくり編・水簸(すいひ)】
今回は第二段階、水簸後の乾燥の模様をまとめてみたいと思います。北窯以外ではおそらく見られないであろう光景と先人の知恵に、驚かされることしきりでした。最後までお読みいただけたら幸いです。
屋外で行われる乾燥
攪拌され、ふるいにかけられた土は槽の中でゆっくりと沈殿し、上澄みと土の層に分かれていきます。その槽の前には、縦長の大きな槽(ブルーシートがかぶせられている部分)と一面に赤茶色の四角いものがぎっしり並べられた台が置かれている広場が。中央にある縦長の槽には、上澄みを除いた土を取り出したものが入っています。(水簸された土が入っている槽からこちらへ土を移動させる「土出し」と呼ばれる作業は、次回じっくりお伝えしたいと思います。)
台の上の四角いものは、伝統的な沖縄の家の屋根に使われてきた赤瓦です。
利用するのは瓦の吸水性と太陽の熱
沖縄の赤瓦は、ほかの地域に多く見られる黒瓦(灰色の瓦)と違い、空気を入れながら焼き上げる酸化焼成(さんかしょうせい)と呼ばれる方法で作られます。焼成温度が低く、吸水率が高くなるのが特徴です。与那原町にある新垣瓦工場からは、この性質を生かしたコースターも販売され、人気を博しています。
赤瓦の吸水性とパワフルな太陽の光を利用したこの方法、早いときには数時間で土がいい状態に乾くのだそう。実際の様子を見てみましょう。
瓦の上に載せて乾燥させる
ぎっしりと瓦の置かれた台に囲まれた槽の中にある土。ここから取り出す段階では、まだ水気がかなり多くべっとりと手につくような状態です。
両手でひとすくい、ソフトボールほどの大きさにまとめ、さんさんと降り注ぐ太陽の光の下、ずらりと並べられた瓦の上に載せていきます。
とにかくたくさんの量の土を乾燥させるので、各工房の陶工がほぼ総出で作業。最初は槽の外から取り出していますが、作業が進んで土が少なくなってくると、槽の中に入って取り出します。
瓦の上に土を置いた後、曇りや晴れといったその日の天気、空気の乾燥具合によって、1時間後、1時間半後、といったように時間を決め、また集まって土の様子を見ます。表と裏をひっくり返し、また時間をおいて集合。これが適宜繰り返されます。最初はソフトクリームのようだった土は、まとまってきたパン生地のような雰囲気になっていきます。
乾燥終了から保存まで
ほどよく乾燥した状態になると、次に始まるのが土をまとめ、包んでいく作業。パレットに載せたブルーシートの上に半透明のシートを重ね、そこへ土を積んでいきます。
特に土を運ぶ道具のようなものは見当たらないので、持てる分だけ抱えてくるのか、後から何か入れ物を持ってきてリレーのような形で運ぶのか、と思っていたのですが、何と。
陶工の手から手へ、土の玉が空を飛び始めました。キャッチボールが始まったのです。
遠くからでも中継1回か2回、近くなら1回でシートの上へ。広い作業場で効率よく土を集め、まとめるための知恵なのです。ミスして落としたりしては大変。陶工どうしが息を合わせ、とても慎重に行われている作業です。
保存中の土はこちら。二重のシートにくるまれ、数か月間寝かせてから仕上げに入るということでした。
おわりに
[st-kaiwa-27874]瓦を使った沖縄ならではの方法に加え、まさかのキャッチボールまで。乾燥の様子はいかがだったでしょうか。[/st-kaiwa-27874]
乾燥から保存までの工程は巨大な槽に溜められた大量の土を扱うので、ほかの作業と並行しながら長期間にわたって続きます。気候にも左右されるため1~2時間ほどごとに様子を見、雨が降ったときには瓦の上の土や槽が濡れないよう覆わなければなりません。
乾燥させたばかりの土は、「まだ生きていて、暴れることがある」と親方は言います。数か月間寝かせ、落ち着かせてからでないと陶土にはできないのだそうです。北窯では、4工房分の土を、年4回の窯焚きのサイクルに合わせて準備しています。
次の記事は土づくり編の最終回!今回お伝えできなかった「土出し」の様子と、陶土を仕上げる最終段階をお目にかけたいと思います。
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