窯焚き前の作業あれこれ
窯や道具の掃除・手入れ
すすで真っ黒になった窯焚き後の窯。
その内部や作品を収めていた棚にも、自然釉(高温の炎で薪の灰が溶け、釉薬のようになったもの)や耐火粘土など色々なものがこびりついています。
窯の内部はもちろんのこと、棚板、その支柱(ツク)、棚の間にさらに棚板を追加する際などに使われる四角い「サイコロ」、作品が棚にくっついてしまわないように使う平らで丸い「センベイ」などの道具類も削ったり磨いたりと必要に応じメンテナンス。
その後に耐火度の高いメーガニク(前兼久)とアルミナを溶かしたものを塗って乾燥させ、次の窯焚きに備えます。
メンテナンスを終えた窯や道具類はとても美しいたたずまい。新年の窯の姿はさらに格別です。
窯詰め・棚組み
窯焚きの1~2週間前頃から始まり、火入れ前まで行われる窯詰め。
初回でも少しお伝えしましたが、各工房が焼き上げを待つばかりとなった作品を窯へ運ぶ作業です。
陶工たちは作品がずらりと並んだ板をいとも簡単に袋の中へ移動させていきますが、できるようになるにはかなりの熟練が必要に見えます。
手前の火の当たりの強い場所、奥の直接は火が当たりにくい場所で焼き上がりに大きな違いが出る場合があるのが登り窯。
どこに何を置くかも考えながら、限られた空間に作品をすべて収めていかねばなりません。
工房によっては窯詰めの記録を詳細に残しているところも。
また、エキストラの棚、前棚(まえだな)を組む工房もあります。後ろの棚を詰め終えてからでないと取りかかれない作業です。
ケイ石を敷いて、間隔を測り、平衡をとりつつ基礎を作って棚を組んでいきます。
袋の中はかなり狭くなってしまうので、棚を組みながら作品を詰めていくような形に。
すべての工房が作品を詰め終わると、入口をふさぎ、薪を運び込んで火入れとなります。
このほかにも、北窯ではやちむんを作るために日々様々な作業が行われています。私が見てご紹介しているのはそのうちのほんのひとかけら。
あなたがこの記事を読んでくださっている瞬間にも、北窯の陶工たちはやちむん作りに取り組んでいるかもしれません。
第1回~11回の振り返り
ここからは総集編。
第1回の火入れから前回のフチミまで、これまでの内容を振り返ってみましょう。
窯焚き編(第1回・第2回)
北窯のやちむん作りのハイライト、火入れと焚き上げ。
13の袋を持つ登り窯の威容、薪を燃やす鮮やかな炎の色、目にしたすべてに圧倒された火入れ。たくさんの陶工の力を合わせ、4日間火を絶やさず続く4工房共同の登り窯の窯焚きのはじまりの日に立ち会わせていただきました。
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第1回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【窯焚き編・火入れ】
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そして、それに続く各袋の焚き上げ。
下段の1番から最上段の13番まで、各袋を3~4時間かけて個別に焚く様子。
窯と炎に一途に向き合う陶工の姿、1200℃を超える窯から取り出される炎の塊のような色見に目を奪われるばかりでした。合間に見上げた夜明け前の空のすがすがしさは忘れられません。
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第2回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【窯焚き編・焚き上げ】
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窯出し編(第3回)
4日間の窯焚きの後、密閉された窯は蓄えた熱を4日間かけてゆっくりと放出。陶工たちも体を休める「窯休み」と呼ばれる期間を経て、焼き上がったやちむんを取り出す作業が「窯出し」です。
高温の炎の跡があちこちに残る窯の姿と、登り窯ならではの風情を持つやちむん。この日にだけ聞くことができる神秘的な音も記事内から再生できます。
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第3回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【窯出し編】
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土づくり編(第4回~6回)
北窯の特色のひとつに、沖縄の読谷村以北で採れる赤土を材料に、ほとんど人力で陶土(とうど/やちむんのもととなる粘土)を作っていることがあげられます。
その土づくりの様子を3回にわたってまとめたのがこちら。
第4回でお伝えしたのは、原土(げんど)を水で攪拌し、草や小石などのごみや異物を取り除き、ふるいで濾過して陶土に精製する水簸(すいひ)と呼ばれる作業。言葉通り全身泥まみれになりながら行われる、かなりの重労働です。
こんな土づくりが現在に受け継がれていること、その陶土で作られるやちむんが日常の器として提供されていることに、改めて頭の下がる思いでした。
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第4回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【土づくり編・水簸】
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第5回は水簸後に沈殿させた土を乾燥させる様子をまとめています。
吸水性の高い赤瓦と四季を通して元気な太陽の光という沖縄ならではのものを最大限に利用した、北窯以外ではおそらく見られないであろう光景が目白押し。
陶土が空を飛ぶまさかのキャッチボールなど、意外性もたっぷりの工程でした。
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第5回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【土づくり編・乾燥】
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第6回は陶工たちが土の海に挑む「土出し」を中心に陶土が仕上がるまでをお目にかけました。
土出しは水簸後の土を乾燥用の槽に移す作業なのですが、準備と後片付けを含め約2時間で終了してしまうことにも驚くばかりの水簸以上にハードなもの。
陶工たちのチームワークと集中力、モチベーションの高さ、徹底して無駄を出さない方法はさすがのひとことでした。
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第6回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【土づくり編・土出し・仕上げ】
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窯修理編(第7回~第11回)
第7回から第11回は登り窯の修理作業にフォーカス。
5番と6番の袋の屋根、ふたつの袋を仕切る壁を作りなおすなかなか行われない大規模な修理の過程に立ち会わせていただきました。
第7回は解体作業。
袋の中の棚や外に置いてある様々な道具をすべて運び出し、入口のアーチ部分から解体。主にハンマーを使っての作業で、辺りにはマスクをしていても息苦しいほどの土煙がもうもうと立ち込めました。
約1日で解体は終了。瓦礫やレンガをすべて運び出した後の窯には、古い遺跡のような雰囲気が。
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第7回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【窯修理編・解体】
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第8回では壁の基礎となる部分と屋根のアーチの要となる「にんじん」作りの様子をまとめました。
「にんじん」の主原料は窯の瓦礫。廃棄されず、油圧ショベルの職人技で細かく砕いてすべて再利用することがあたりまえのように行われていました。また、基礎部分は水準器で平衡を取りながら慎重に耐火レンガを敷く作業が進められました。
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第8回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【窯修理編・基礎部分と「にんじん」作り】
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第9回は壁作り。
耐火レンガを使って狭間(さま)と呼ばれる炎の通り道を組み、その上に壁を築いていきます。
基礎と面をずらして少し奥からレンガを積み、壁を後ろに反らせておくなど、その工程には重力による壁の前傾やふくらみを極力抑え、窯を長持ちさせるための工夫が満載でした。
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第9回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【窯修理編・壁の構築】
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第10回は屋根作り。
乾燥を経て出番を待っていた大量の「にんじん」を形によって適宜使い分けながら積み、たくさんの支柱で支えたベニヤ板のアーチを基礎に屋根が形作られていきます。
解体から約1か月で真新しい屋根に覆われた登り窯。修理作業もあと一息で終了というところまで進みました。
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第10回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【窯修理編・屋根作り】
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そして前回の第11回。屋根に残る水分を飛ばし、わらを焼き切る空焚き作業「フチミ」と、温度計のない北窯の窯焚きで重要なテストピースとなる色見を取り出す穴を開ける様子をお伝えしました。
フチミの準備段階としてアブリが3日間行われ、色見穴が完成。各袋約3時間のフチミをもって、約2か月に及んだ修理作業が終わりました。
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第11回読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【窯修理編・フチミと色見穴】
おわりに
沖縄のやちむんは名だたる作家さんも多くおられ、おみやげとしても人気があります。それでも、基本的にはごくごく普通の価格で提供される、日常で使うためのやきものです。
北窯のやちむんは、沖縄の土を使って手作業で陶土を作り、完全にはコントロールできない登り窯で焼き上げられます。
今の時代に、自然の力を借りつつ人が手をかけ、時間をかけ、思いを込めて作るものが受け継がれていることは奇跡に近いと思っています。さらに、それが普段使いのものとして特段の説明もなく店頭に並んでいることにも驚くばかりでした。
陶土は機械を使って作ることもできますし、様々な土地の良質な陶土を買うこともできます。思った以上の作品が生まれる可能性を秘めていると同時に、手間がかかり、様々な不確定要素が多い登り窯を使わなくとも、温度管理が簡単にできるガスや電気、灯油などを使う窯もたくさんあります。
効率や利便性を求めるなら、絶対に選ばない方法。あえてそれを選び、やちむんを作り続けているのが北窯です。
4日間続く窯焚きの炎に向き合う陶工たちの姿に魅せられつつ、それが北窯の営みのほんの一部にすぎないことに気づいたとき、これだけを見て記事は書けない、書いてはいけない、と思いました。土づくりで初めて見た水簸に圧倒され、年明けから始まった登り窯の修理ではひとつひとつの工程に目をみはり、144回の窯焚きまでの約4か月間があっという間に過ぎていきました。
専門的な知識があれば別ですが、やちむんを手にしただけでは、それがどんな作業を経て仕上げられたものなのかうかがい知ることはできません。そして、陶工たちもあまり多くを語りません。使う側の私たちがやちむんのなりたちを知る機会はほとんどないのです。
伝統を守り次世代に伝えつつ、おおらかに様々なものを取り入れていく北窯のやちむん作り。それを目の当たりにするにつれ、ひとりでも多くの方に北窯で日々行われていることを知ってもらい、その積み重ねから生み出されたやちむんを愛着をもって使ってほしいと心の底から思うようになりました。
夢中で撮った山のような写真の整理に四苦八苦し、いったいどうやって伝えたらいいのか、悩みながら書き進めた記事。1年をかけてようやく最後までたどり着けたという安堵感と、「北窯の凄みをきちんと伝えられたのか」「もっといい伝え方があったのではないか」という後悔にも似た気持ちの間で、今も揺れています。
北窯の親方と陶工の皆さんの協力なしには、この記事は書き上げられませんでした。足しげく通っては写真を撮りまくって帰っていく変なライターを温かく迎え、色々なことを教えてくださいましたこと、心より感謝申し上げます。
通常の作業に登り窯の修理という大仕事が加わった大変な期間。お邪魔をしてしまったこともあったはずなのに、本当に良くしていただきました。
4か月の間に託していただいたたくさんの大切なものを少しでもお返しできるように、北窯のやちむんのはかり知れない価値を伝えられるものになるように願いを込め、拙いながらもようやく12の記事としてかたちにすることができました。
貴重な場に立ち会わせていただき、さしたる知識も持たない私に基本の基本から丁寧にご教授くださいましたこと、改めて深く御礼申し上げます。
今、北窯のやちむんを手にされているあなた。作り手たちの思いを感じつつ、ぜひ大事に使ってください。まだ北窯のやちむんを知らないあなた。ぜひ、読谷村のやちむんの里を訪れ、北窯共同売店に並ぶたくさんの器に触れてみてください。
最後まで目を通していただき、本当にありがとうございました。
與那原工房
與那原正守さん、與那原正義さん、屋比久敏之さん、金城隆司さん、大畑光範さん、関真奈穂さん、金城朋也さん
宮城工房
宮城正享さん、池城拓真さん、石川真衣さん、作田綾音さん、甲斐梓さん
松田共司工房
松田共司さん、崎原盛仁さん、島袋貴寿さん、眞榮田知里さん、田中将也さん、島袋萌美さん、釜井梨乃さん
松田米司工房
松田米司さん、松田健悟さん、比嘉優希さん、仲尾雅昭さん、伊良部あゆさん、石村ゑみさん
北窯共同売店
陰に日向に北窯を支えるお姉さま方
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