はじめに
ずっしりとした重みとやわらかなフォルム、南国の風土を映したような大らかな絵付けで人気の沖縄の陶器、やちむん(焼きもの)。
あなたもどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。
では、そのやちむんはどのように作られているのか、考えたことはありますか?
ろくろ(回転台)を回して形を作ったり、絵付けをしたりといった作業は目にしたことがあるかもしれません。では、素材となる陶土はどう作られているのか、どんなふうに焼き上げられているのか、ご存知でしょうか。
読谷村はやちむんの里の奥にある、読谷山焼・北窯。
そこでは、沖縄県北部で産出される赤土を混ぜ、陶土にするところから始める・・・そんなやちむん作りが続けられていました。
作品を焼き上げるのも、ガスや電気を使う窯ではなく、「登り窯」と呼ばれる斜面を利用して築いた大型の薪窯。4日間昼夜を徹して薪をくべ、さらに4日間かけて冷まして取り出す、伝統的な方法で行われているのです。
受け継がれてきた手法を守り、人の手で一からはじめるものづくり。今回は、北窯のやちむん作りのハイライト、窯焚きの火入れまでの記録です。
基礎知識
まずは、北窯や登り窯についての基礎知識を。
読谷山焼(ゆんたんざやき/よみたんざんやき)・北窯とは?
読谷村内にある、沖縄の伝統的なやちむん・壺屋焼の流れを汲む19の工房が集う「やちむんの里」。その北側に位置する、宮城正享さん、松田米司さん、松田共司さん、與那原正守さんの共同窯です。
登り窯とは?
斜面を利用し、楕円形の袋(ふくろ/焼成室)が連なる形になった窯のこと。各袋は狭間(さま)と呼ばれる炎の通り道でつながっています。大口(おおぐち/窯口、焚口)に薪で火を入れるところから始まり、下の袋から順に数時間ずつかけて焼き上げていきます。
北窯の登り窯は1992年に築かれた、13の袋が連なる大型のものです。最高温度は1270℃。火入れは年4回、4つの工房が協力して行います。
読谷山焼・北窯の窯焚き(第143回)
2018年11月27日に初日を迎えた第143回となる窯焚き。その初日、火入れまでにもたくさんの作業が行われます。順を追って見てみましょう。
窯詰めの様子
乾燥や絵付け、釉がけが終わり、焼成(しょうせい/焼き上げ)を待つばかりの作品を、登り窯の中に並べていく窯詰め。数週間かけて行われる場合もある、窯焚き前のまさに大詰めの作業です。
窯焚き当日のお昼頃に伺うと、登り窯の袋には棚が作られ、壺や鉢、皿、マカイ(椀)、コップなど大小様々な作品がぎっしりと詰められていました。各工房に3つずつの袋が割り当てられており(最上段の13番目の袋は実験的に使われます)、工房によっては作品を収める棚を2列に組んでいる場合もあります。
各袋の入り口をふさぐ様子
窯の正面に向かって左手は、作品や人の出入りができるよう大きく開いています。窯詰めが済んだ後に始まるのは、この入り口をふさぐ作業。ブーラと呼ばれる大きなレンガなどを使い、陶工たちが手早く壁を作り上げていきます。
このとき、薪の投入口を1か所または2か所開けておきます。慎重に位置決めをしつつ、手早く組んでいかねばならない難しい作業だと感じました。
薪を運ぶ様子
フォークリフトで運ばれてきた山のような薪を、13ある各袋の横に移動させます。入り口をふさぐ作業が終わり次第、そのスペースにブロックと棒であっという間に薪置き用の台が組まれ、薪がどんどん積み上げられていきます。右手からも薪を投入するのですが、こちらは早い段階で同様の作業が終えられています。
窯口には、窯詰めや入り口をふさぐ作業と並行して、すでに薪が組まれています。
火入れを待つばかりとなった登り窯。夜も更け、静かな緊張感が辺りを満たしていきます。
火入れの様子
親方の手で窯に供えられた盃に泡盛が満たされると、いよいよ火入れ。
少しずつ大きくなり、ゆっくりと薪を燃え上がらせていく炎。その動きに思わず見入ってしまう、神秘的な瞬間です。窯口に火を入れたのは、今回の窯焚きを最後に独立される陶工の方でした。必ず窯に火を入れる体験ができるように、ということで、各工房に入ったばかりの方、独立される方がこの役割を担う場合が多いようです。
その後、火入れをした陶工の手から注がれる泡盛を先ほどの盃に受け、窯に捧げます。この場に居合わせた全員が参加する儀式です。
スケジュール決定・小休止の様子
火入れの時間から計算して、窯焚きのスケジュールが発表されます。窯口や各袋の火入れのおおよその目安が書かれた大きな紙が貼り出され、これに従って窯焚きが進められていくことになります。
火入れまでの一連の作業が無事に終わり、一旦、小休止。ゆっくりと窯口を暖めていく炎を見守りつつ、陶工と親方たち、縁ある方々がひとときゆんたく(おしゃべり)とご馳走を楽しみます。
ささやかな宴会が終わると、最初の当番となる工房の陶工だけがその場に残ります。人の気配が減った登り窯には、ぱちぱちとはぜる炎の音が大きく響いていました。
まとめ
窯焚きの初日、火入れまでの様子を駆け足でまとめましたが、いかがだったでしょうか。
窯口を焚くのは約19時間半。4つの工房が4時間半~5時間半ほどの交代で行います。その後は各袋を順に3時間半~4時間ずつ焚き、最後となる13番目の袋を焚き終わるのは4日後の夕方から夜にかけてとなります。
この後数か月も通うことになろうとは夢にも思わず、初めて取材に伺ったのがこの日でした。他にも選択肢がある中であえて登り窯を選ぶことの意味、これだけ大きな窯に火を入れ、作品を焼き上げるということの凄み。登り窯とそこで働く陶工を前に、色々なことを感じ、考えさせられました。
また、火入れの際には、どうか窯焚きが無事成功するように、良い作品が焼けるように、と祈らずにはいられない気持ちでした。
続きは、読谷山焼・北窯の登り窯とやちむん作り【窯焚き編・焚き上げ】でお伝えしたいと思います。
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