- 国立劇場おきなわの普及公演で行われる組踊解説と「組踊版シンデレラ」
- あらすじと見どころから選ぶ組踊
- 初鑑賞におすすめ「執心鐘入(しゅうしんかねいり)」
- 王道の仇討ちもの「二童敵討(にどうてきうち)」
- 羽衣伝説から生まれた「銘苅子(めかるしい)」
- 親子の情を描く「女物狂(おんなものぐるい)」
- 大がかりなしかけが特徴「孝行之巻(こうこうのまき)」
- 討たれる側にも大切な存在があることを示唆する「万歳敵討(まんざいてきうち)」
- よく聞くうちなーぐちのルーツ「大川敵討(おおかわてきうち)」
- 家族の絆を描く「花売の縁(はなうりのえん)」
- 数少ない恋愛もの「手水の縁(てみずのえん)」
- 継子いじめと沖縄の雪景色「雪払い(ゆきばらい/ユチバレー)」
- 孟子とその母の故事を沖縄に置き換えた「賢母三遷の巻(けんぼさんせんのまき)」
- 多良間島の組踊「忠臣仲宗根豊見親組(ちゅうしんなかそねとぅゆみゃーぐみ)」
- 組踊はどこで観られる?
- 組踊がよくわかる基本の用語集
- まとめ
国立劇場おきなわの普及公演で行われる組踊解説と「組踊版シンデレラ」
組踊には能や歌舞伎といった伝統芸能と同じように独自のきまりごとがあり、それを知っているとさらに深く舞台を楽しめます。
国立劇場おきなわでは、これまで組踊に触れたことのない方にも気軽に楽しんでもらおうと、解説パートを設けた「普及公演」(初心者向け公演)を行っています。しかし、パンフレットや公式ページなどで公演情報を知っていても、「解説っていったいどんな内容なの?」「本当にわかりやすいのかな?」といった疑問が先に立ち、これまで鑑賞に気持ちが向かわなかった方もおられるのではないでしょうか。
普及公演では、組踊の基礎を解説するための40分ほどのプログラムを第一部に行い、第二部に古典組踊が上演されます。
解説プログラムは「解説 組踊の楽しみ方」または「組踊版シンデレラ」。
どちらも案内役が観客席からひとり希望者を募り、舞台上に招いて実際の舞台の出演者に仕立て上げてしまいます。ユーモアを織り交ぜながら組踊の基本をわかりやすく伝えてくれるのですが、それぞれ特徴がありますので、ご紹介したいと思います。
即興組踊で想像する・聞く楽しみを実感する「解説 組踊の楽しみ方」
組踊についてしっかりと学びたい方、即興組踊を見てみたい方にはこちらがおすすめ。
組踊の立方(演者)が案内役となり、組踊が台詞、舞踊、音楽の3つの要素で成り立っている「琉球版オペラ」であるという基礎の基礎から、なりたちや歴史、豆知識など少し深い部分にも触れる内容です。
歌と伴奏を行う地謡(ジウテー)も、笛、胡弓、歌三線、箏、太鼓と楽器ごとに紹介され、かなりしっかりとした知識を得ることができます。
舞台上へ招かれた観客には衣装も用意されており、着替えを済ませて即興組踊の主人公に。案内役のサポートを受けながら、一部の演目を除き幕や背景に変化はなく、道具も動きも最小限で「想像力がいちばん大切」とされる組踊の世界を体験します。
客席に残った観客はその動きを追い、音楽を聞きながら、やさしく語られる組踊ならではのきまりごとに耳を傾けます。その内容は、例えばこういったもの。
- 「拍子木の音で物語がスタート」
- 「人物はそれぞれテーマソングに乗って登場する」
- 「舞台上で立方が一周するなど大きく移動するのは場所が変わった合図」
立方の移動中には歌が流れることもあり、その歌詞は登場人物の移動中の気持ちや風景を語っています。「組踊は聞くもの」と言われる通り、音楽の役割の大きさが実感できるものも多いです。
ユーモアを織り交ぜながらの進行で、情報量はかなりのものですが、すんなりと頭に入ってきます。そして、場面や情景、登場人物の思いを想像する楽しさにも気づかされる内容になっています。
今と昔、西洋と東洋のギャップでおもしろさ満載の「組踊版シンデレラ」
直感的に組踊について知りたい方やお子さんと一緒に鑑賞する場合などは、物語を通して色々なきまりごとを示してくれるこちらがいいでしょう。
継母とその連れ子たちにいじめられながらも美しい心を持ち続ける少女が、魔法使いに助けられて王子さまとの幸せをつかむ名作童話「シンデレラ」を、ストーリーはそのままに組踊に仕立てたプログラムです。
キャストは案内役である魔法使い、シンデレラ、王子さま、継母、姉2人。「解説 組踊の楽しみ方」同様観客からひとりを出演者として招きますが、どんな役を務めるのかは、実際の舞台をご覧になって確かめてくださいね。物語の始まる前には魔法使いが組踊の鑑賞のポイントを紹介、さらに組踊を楽しむための魔法もかけてくれます。
組踊らしく登場人物は沖縄の古い言葉を使いますが、音楽には日本語も。「ダンスパーティー」「イケメン王子」「意地悪ネーネー(お姉さん)あっかんべー!」といった歌詞が琉球古典音楽の重厚な調べに乗るのを想像してみてください。静かな笑いとともに、身を乗り出して見てしまう内容であること、おわかりいただけると思います。
西洋の童話を沖縄の組踊へ転換するための
- 馬車:かぼちゃ→冬瓜(とうがん・シブイ/一抱えもあるような大型の瓜で、夏に収穫して冬まで保存できる沖縄の野菜)
- 馬:ねずみ→台所に出没する黒くて光るもの(うちなーぐちでは「トービーラー」。暖かい気候のせいか、沖縄では大型化する傾向あり)
- シンデレラの忘れもの:ガラスの靴→房指輪(ふさゆびわ/様々な幸運を願って七つのモチーフがつけられた、嫁ぐ娘に親が贈っていた琉球伝統の指輪)
といった大胆な置き換えも見事。
「うなだれる→悲しんで涙を流している」「お互いの肩に手をやる→抱き合っている」といった所作の意味も地謡にのせてリアルタイムで解説され、感情表現がとても抑えられたものであること、音楽と歌詞がそれを補い、代弁するものであることを体感できます。
あらすじと見どころから選ぶ組踊
組踊を一度は見てみたいけど、どの演目を選べばいいかわからない・・・。
そんなあなたのために、国立劇場おきなわの2015年~2020年の公演実績と予定から、鑑賞できる機会が多いものを11作、さらに多良間島(たらまじま)に伝わる組踊1作をピックアップ。そのあらすじと見どころをまとめました。
興味のある作品から、今後の公演予定をご覧になってみてはいかがでしょうか。
また、国立劇場おきなわの2階にはレファレンスルーム(図書閲覧室)があり、図書資料の閲覧のほか、過去の主催公演DVDを鑑賞することができます(機器使用料として30分50円が発生)。気になる演目を、まずはDVDで鑑賞してみるのもおすすめです。
公演記録映像視聴可能日:火曜日・水曜日・木曜日・第2・第4土曜日
時間:10:00~12:00、13:00~17:00
料金:30分毎50円(当日現金支払)予約制、視聴希望日の前日までに要予約
電話予約受付日時:平日10:00~12:00、13:00~17:00
電話: 098-871-3319(国立劇場おきなわ調査養成課)
レファレンスルーム利用のご案内
初鑑賞におすすめ「執心鐘入(しゅうしんかねいり)」
作者:玉城朝薫
首里への奉公に上がる途中、一夜の宿を借りる中城若松(なかぐすくわかまつ)。宿の女はかねてから美少年と名高い若松に恋心を抱いており、言い寄りますが拒絶されてしまいます。しつこく迫る女に若松は身の危険を感じて末吉の寺に逃げ込み、鐘の中にかくまわれました。追ってきた宿の女は鬼へと変わってしまい、座主をはじめ僧たちの法力で調伏されます。
思わず笑いを誘われる若い3人の僧たちの人間味あふれる言動、メイクや衣装でも表現される鬼に変わっていく女性に注目。朝薫五番の中でも人気が高く、組踊の魅力がたっぷり詰まった作品で、初めて鑑賞する方にもおすすめです。
2018年に行われた上根子神楽(かみねこかぐら)との比較公演の記事で、もっと詳しい内容をご覧いただけます。
王道の仇討ちもの「二童敵討(にどうてきうち)」
作者:玉城朝薫
天下取りの野心に燃える阿麻和利(あまわり・アマウイ)は、護佐丸を謀略によって滅ぼしました。仇討ちの機会をうかがっていた護佐丸の遺児鶴松と亀千代は、阿麻和利が野遊びをすると聞き、母に別れを告げ、父の守り刀を懐(ふところ)に、踊り子に姿を変えて近づきます。
ふたりを気に入り、身につけていた着物や刀まで与える阿麻和利。丸腰になったところを討ち取られてしまいます。
朝薫五番の仇討ちもの。冒頭に阿麻和利が名乗りとともに見せる、歌舞伎の見得を切るような「七目付(ナナミヂチ)」の所作は迫力があり必見。勇猛果敢な雰囲気が一変する、酔いが回った酒席の様子との対比が鮮やかです。
羽衣伝説から生まれた「銘苅子(めかるしい)」
作者:玉城朝薫
泉で髪を洗う天女にひとめぼれした農夫の銘苅子は、羽衣を隠し、妻になるよう迫ります。帰ることができない天女は仕方なく妻となり、女の子と男の子も生まれました。
ある日子どもの歌から羽衣の隠し場所を知った天女は、ふたりの子どもとの別れに心を痛めながら天へ帰っていきます。母を探してさまよい歩く姉弟。話を伝え聞いた首里の王が、姉は王子の嫁に、弟は王女の婿に迎え、銘苅子には位を与えました。
朝薫五番のひとつで、沖縄に残る羽衣伝説がもととなっています。押しの一手で天女を口説く銘苅子、必死に呼びかけて引き留めようとする子どもたちなど、登場人物たちの感情が丁寧に描かれている作品です。子どもを残して天女が昇天する場面では、その苦悩が歌によって表現されています。ぜひ耳を傾けてみてください。
親子の情を描く「女物狂(おんなものぐるい)」
作者:玉城朝薫
子どもを連れ去り、売ることを生業にしている人盗人(ひとぬすびと)が、ひとりの子どもを連れ去ってしまいます。寺に宿を借りて寝入った人盗人の隙をついて、子どもは僧たちに助けを求めました。僧たちが偽の人相書きを作って読み上げると、人盗人は慌てて逃げ出します。
一方母親は、心労のあまり正気を失いながら子どもを探し村々をさまよい歩いていました。ある日寺の近くを通りかかり、保護されていた子どもと無事に再会。正気を取り戻し、ともに家路につきます。
朝薫五番のひとつ。読み上げられる手配書が偽物とも知らず、「(犯人は)目が細い」と聞けば目を見開き、「口が大きい」と聞けばおちょぼ口にとと人相書きの特徴をごまかそうとする人盗人の姿は笑いを誘います。子どもを探しさまよう母が崩れるように座り込む様子は、音楽とも相まって悲しみがあふれ出すようです。
大がかりなしかけが特徴「孝行之巻(こうこうのまき)」
作者:玉城朝薫
「ムルチ」と呼ばれる池に住む大蛇が絶えず風雨を起こし、農民を苦しめていました。首里王府は生贄(いけにえ)によってこれを鎮めようとし、残った家族の生活の保障とひきかえに生贄となる者を求める高札を設置。
母のことを弟に託し、ひとりの娘が名乗り出ます。祭壇で祈る娘に大蛇が襲い掛かろうとしたその瞬間、天から神が出現して大蛇を撃退、娘を救いました。驚き感動して首里へと向かうところへ、母と弟も駆けつけ再会を喜びます。娘の孝心に感動した王府は娘を王子の妃に、弟を王女の婿に迎えました。
朝薫五番のひとつ。いちばんの見どころは、とぐろを巻いた大蛇が口から火花を散らしながら登場する場面です。のたうつ大蛇の尾、打ち鳴らされる太鼓。緊迫した雰囲気が表現されています。前半、家族のためにと「自分こそが生け贄になる」と互いに言い争う姉弟のやりとりには、献身的な家族愛も感じられます。
討たれる側にも大切な存在があることを示唆する「万歳敵討(まんざいてきうち)」
作者:田里朝直(たさとちょうちょく)
高平良御鎖(たかでーらうざし)は、名馬を手に入れられなかったことを恨み、大謝名の比屋(おおじゃなのひや)を闇討ちにします。大謝名の比屋の息子・謝名の子(じゃなのしい)は父の仇を討つため、弟で僧侶の慶雲(けいうん)に協力を求めます。慶雲ははじめ「自分は僧の身だから」と渋りましたが、親への孝行が優先するという説得に応じます。
家で不吉なことが続いた高平良御鎖は、家族らを連れ小湾浜(こわんばま)で浜下り(はまおり/浜辺で厄をはらう風習)をすることにします。謝名兄弟は万歳(まんざい/旅芸人)に姿を変えて近づき、見事仇討ちを果たしました。
人情味あふれる筋立てが特徴の朝直三番(田里朝直による3つの傑作組踊)のひとつ。仇討ちものではありますが、浜下りには妻や子どもたちも登場し、討たれる側の高平良御鎖にも大切な家族がいることを示唆するような物語になっています。披露される様々な舞踊も見どころ。
よく聞くうちなーぐちのルーツ「大川敵討(おおかわてきうち)」
別名:「忠孝婦人」「村原」
作者:久手堅親雲上(くでけんぺーちん)
谷茶(たんちゃ)の按司(あじ)が、人望厚い大川の按司を急襲し、城を乗っ取ってしまいます。今帰仁城からの帰りにそれを知り仇討ちを誓った大川の按司の部下である村原の比屋(むらばらのひや)。
按司の妻の乙樽(うとぅだる)は大川の若按司(按司の息子)の乳母と偽り城の中に入り込んで情報を集め、城攻めの好機を密偵に伝えます。大川の旧臣たちとともに攻め入った村原は無事若按司と乙樽を助け出し、仇討ちを果たしました。
久手堅親雲上(くでけんぺーちん)による仇討ちもの。2時間半を超える長編ですが、どの登場人物も個性的に描かれ、目が離せない内容となっています。「イチャリバチョーデー(一度会ったら兄弟)」といううちなーぐちのルーツになった唱え(台詞)があることでも有名な組踊です。敵の懐に飛び込む乙樽の機転や度胸の良さにも注目を。
家族の絆を描く「花売の縁(はなうりのえん)」
作者:高宮城親雲上(たかみやぐすくぺーちん)
下級士族である森川の子(むりかわぬしい)は妻子を残してやんばる(沖縄本島北部)へ出稼ぎに行き、妻の乙樽は良家に乳母として奉公しながら暮らし、12年の歳月が流れました。
暮らし向きも良くなり、子の鶴松も成長したので、森川の子を探しに出かけることに。途中出会った猿引きの芸に旅の疲れを癒しながら、ふたりは田港村にたどり着き、ある花売りから梅の花を買い求めます。それは何と森川の子でした。互いに家族であることに気づき、森川の子は落ちぶれた我が身を恥じて小屋に逃げこんでしまいます。しかし乙樽の温かい言葉に姿を現し、3人で家へと戻ることになります。
高宮城親雲上(たかみやぐすくぺーちん)作の世話物(せわもの)と呼ばれる市井の人々の生活の中の物語を描いたもの。終戦の年のクリスマスに上演された時には、沖縄戦で家族を失った人々の心を慰めたという逸話があるほど愛された演目です。猿引き(猿回し)と猿が登場して芸を披露する場面や、薪取りの老人が森川の子の清廉な人物像を語る台詞にも注目を。能の「芦刈(あしかり)」に影響を受けたとされています。
数少ない恋愛もの「手水の縁(てみずのえん)」
作者:平敷屋朝敏(へしきやちょうびん)
波平村の山戸(やまとぅ)が花見の帰りに立ち寄った泉で髪を洗っていた玉津(たまつぃ)に心を惹かれます。昔から男女の縁結びをする際に行う「手水(女性が手に水をためて男性に飲ませること)」をしてほしいと迫り、家の所在も聞き出して、ふたりは再会を約束し別れました。
山戸は闇夜に玉津の家に忍び込んだところを見つかってしまい、玉津は不義密通の罪で処刑されることに。処刑場で玉津は覚悟を決め、「山戸に立派に生涯を送るよう伝えてほしい」と頼みます。すんでのところで山戸が駆けつけ、必死の説得で玉津の命を救い、ふたりの仲が許されます。
平敷屋朝敏(へしきやちょうびん)によると言われる、組踊には非常に珍しい恋愛がテーマの作品。「手水をしてもらえないなら身投げする」と情熱的な山戸、処刑に臨む玉津の山戸を思いやる遺言など、ふたりの一途な思いがあちこちに散りばめられています。
継子いじめと沖縄の雪景色「雪払い(ゆきばらい/ユチバレー)」
別名:「伊祖の子(いずぬしい)」
作者:未詳
父親の留守中、思鶴(うみつぃる)は雪の降る中で継母に命じられ糸繰りをしますが、寒さで進みません。継母はさらに庭の木などにかかる雪を払い落とすよう無理難題を言いつけ、「雪がやんでからにしてほしい」と頼む思鶴をなじって着物をはぎ取り、雪の降りしきる中へ追い出してしまいます。弟の亀千代が追いかけ着物を着せて連れ帰ろうとしますが、継母が現れて再び着物を取り上げ、亀千代だけを連れ帰りました。父親は視察からの帰りに山中で倒れている思鶴を見つけて問いただしますが、思鶴は継母をかばって本当のことを言いません。
真実を察した父親は思鶴を連れ帰り、継母を詰問し、ついには刀を抜こうとします。身をもって継母をかばう思鶴と亀千代の孝心に打たれた父は刀を収め、継母は悔い改めることを誓いました。
作者未詳で、能の「竹雪」に影響を受けたとされる作品。継子いじめの醜さ、孝を尽くす姉弟の純粋さが描かれた世話物です。実は雪が降った記録もある沖縄(1977年2月17日、2016年1月24日にそれぞれみぞれを観測)。舞台にも雪が舞い、幻想的な雰囲気を楽しめます。
孟子とその母の故事を沖縄に置き換えた「賢母三遷の巻(けんぼさんせんのまき)」
作者:未詳
千代松の母は、早くに夫を亡くし窮乏する中でも、千代松に学問を修めさせ首里王府に仕える身分にしたいと考えています。田舎に住めば百姓の、町に住めば商人のまねをして遊ぶ千代松が勉学に励む環境をと学校の近くに居を移し、千代松は学問に親しむようになりました。
視察のためお忍びで訪れた島尻の世の主(よのぬし/領主)・豊世松の按司は、千代松が熱心に勉学に励む様子を見、母の熱心な教育態度と首里への忠誠を聞いて感銘を受けます。そして親子を城へ招き、千代松を高嶺の地頭に任じるのでした。
教育に良い環境を求め、3度も引越しをした中国の思想家・孟子(もうし)とその母の故事「孟母三遷(もうぼさんせん)」を琉球に置き換えたもの。作者未詳で、伝統組踊保存会によって2003年に復曲された演目です。
多良間島の組踊「忠臣仲宗根豊見親組(ちゅうしんなかそねとぅゆみゃーぐみ)」
作者:未詳
宮古島の仲宗根豊見親は、与那国の鬼虎が住民を虐げていると聞き、王府の命を受けて村々の豊見親と鬼虎征伐の方法を練りました。宮古一の美人と名高いあふがま、こいがま姉妹に踊りをさせ、酒をすすめて酔わせる計画を立て、実行します。
酒宴を開いた鬼虎に姉妹が近づいて酒をすすめ、身分を隠して仲宗根豊見親たちも加わりました。鬼虎が酔いつぶれた頃合いに一気に攻め込み、鬼虎を討ち取ります。暴虐非道な鬼虎が討ち取られたことを喜ぶ与那国の比屋を元通り頭取とし、一件落着。
国の重要無形民俗文化財。宮古島と石垣島のほぼ中間に位置する多良間(たらま)島で毎年旧暦の8月8日から3日間にわたって行われる豊年祭(重かった「人頭税」を完納した祝いや豊作祈願のための祭り)、「八月踊り(国の重要無形民俗文化財)」の中で地域住民の手により上演されている組踊です。2005年には、国立劇場おきなわで「多良間の八月踊り」として公演も行われました。
組踊はどこで観られる?
国立劇場おきなわ
2004年1月に全国で5番目の国立劇場として開場。組踊、琉球舞踊、琉球音楽に加え、能や狂言などの本土の芸能、アジア・太平洋地域の芸能公演も行っています。
国の重要無形文化財「組踊」をはじめとする沖縄伝統芸能の保存振興と、伝統文化を通じたアジア・太平洋地域の交流の拠点となることを目的としており、組踊伝承者養成のための研修事業、沖縄伝統芸能に関する資料の収集も行っています。
資料展示室では定期的に企画展が開催され、レファレンスルームでは図書や映像資料などの閲覧も可能です。詳しい公演スケジュールは公式サイトから。
各公演のチケットについて
料金:各公演により異なる
国立劇場おきなわ友の会
(初年度2100円、以降年会費1050円)入会で自主公演入場券(一部対象外あり)2割引などの優待あり
チケット販売場所
国立劇場おきなわチケットカウンター:098-871-3350
営業時間:10:00~18:00(電話受付 ~17:30)
休業日:年末年始
チケットぴあ 中央ツーリスト各店:0570-02-9999
Confetti(カンフェティ): 0120-240-540
チケット購入ページ
コープあぷれ あっぷるタウン: 098-941-8000
〒900-0006 沖縄県那覇市おもろまち3-3-1 1F
りうぼうプレイガイド パレットくもじ店: 098-867-1171
〒900-8503 沖縄県那覇市久茂地1-1-1 8F
施設詳細
公益財団法人 国立劇場おきなわ運営財団
〒901-2122 沖縄県浦添市勢理客4-14-1
アクセス
車
那覇空港から約20分
モノレール
旭橋駅下車、直結の那覇バスターミナルへ。
20・24・27・28・29・31・32・43・52・63・77・80・92・110番バスに乗車、勢理客(じっちゃく)バス停下車、徒歩約10分
バス
那覇空港発着(那覇バスターミナル経由)
23・26・99・120番に乗車、勢理客(じっちゃく)バス停下車、徒歩約10分
駐車場
あり 無料 209台
※公演が重なる日は満車になる場合もあるので公共交通機関利用がおすすめ
※駐車場混雑が予想される日は、トップページのトピックスに掲載
参考
国立劇場おきなわアクセスページ
国立劇場おきなわ公式サイト
那覇市ぶんかテンブス館「木曜芸能公演」
国際通り牧志駅近くにあり、紅型やシーサー作りなど様々な伝統工芸体験もできる施設。
4階にある「テンブスホール」では、毎週木曜日に「木曜芸能公演 百花繚乱」と題し、琉球芸能のステージを開催。現在は新型コロナウイルス感染症の影響を受けて休演中ですが、「家族」「ルーツ」といった毎月のテーマに沿って、組踊が上演される場合もあります。
詳しいスケジュールは公式サイトから。
料金 大人1500円、高校生1130円、中学生750円
※4枚5000円(1枚あたり250円お得)、9枚10000円(1枚あたり約390円お得)の回数券あり。4階事務所のみで販売。
施設詳細
那覇市ぶんかテンブス館管理事務所:098-868-7810
沖縄県那覇市牧志3-2-10
開館時間:9:00~22:00 ※祝日を除く月曜のみ9:00~18:00
休館日:第2・4月曜(祝日の場合開館、翌平日が休館)、年末年始
駐車場:あり 81台(立体38台/車高1.5mまで、リフト式28台/車高1.5mまで、リフト式9台/2.0mまで、平面4台/車高2.4mまで、平面2台/身障者用)
駐車料金:最初の1時間20分100円、その後1時間以降30分100円
アクセス
車
那覇空港から約20分
モノレール
牧志駅下車、徒歩約5分
バス
120・125番に乗車、牧志バス停下車、徒歩約2分
※毎週日曜日の12:00~18:00はトランジットモール開催。バスは迂回ルートとなり牧志バス停前を通らないので要注意
参考
那覇市ぶんかテンブス館アクセスページ
那覇市ぶんかテンブス館公式サイト
組踊がよくわかる基本の用語集
- 東江節(あがりえぶし) 「アーキー」という高音ではじまる組踊で最もよく用いられる曲のひとつ。深い悲しみや喜びなどを調子を変えて表現する
- 按司(あじ) 領主の位。「〇〇の按司」などと使われ、ほとんどの演目に登場する役柄。「若按司」は按司の息子のことで仇討ちものによく登場する
- 編笠(あみがさ)と杖(チーグーシー/つえ) 道行き(みちゆき/旅、遠出の道中)を表す道具。これを身につけて舞台を半周または一周することで長い距離を移動したことを示す。女性の場合は編笠の代わりに花笠(はながさ)を使用
- 仮名掛け(かながけ) 立方の唱えの言葉尻にかぶせるように地謡が歌い始める、高度な技術を必要とする手法。通常は最後の二文字あるいは三文字に歌がかかることで、場面をドラマティックにする劇的効果を上げる
- きやうちやこ 発音は「チョーチャク」。屋外で身分の高い者が使う腰掛(こしかけ/いす)。役柄に「きやうちやこ持ち」とあるのはこれを運ぶ従者のこと。
- 笹 「狂い笹」と言われ、持っている人物が正気でないことを示す。「女物狂」などで用いられる
- 子(しい) 「○○の子」などと用いられ、琉球士族の位階のひとつ
- 所作(しょさ) 琉球舞踊が基本となった立方の動き。非常に抑えたわずかな動きで感情を表現する
- 地謡(ジウテー) 組踊における演奏者。組踊の音楽(伴奏)で、三線、箏、胡弓、笛、太鼓で構成される。三線は歌い手も兼ねることから「歌三線(うたさんしん)」と呼ばれ、登場人物の感情、場面の描写や転換なども表現する。立方と対比した時、地方(じかた)と呼ばれることもある
- 立方(たちかた) 組踊の演じ手。役者
- 唱え 組踊の台詞(せりふ)。基本的には琉歌(りゅうか/15~16世紀に成立した沖縄の古い抒情歌 )の「八・八・八・六(サンパチロク)」調で、緊迫した場面などに和歌の七五調が用いられる。役柄により声の強さや調子が変わる
- 名乗り 登場人物が舞台に進み出て初めに行うもの。自己紹介と現状、行動予定などを述べる
- 幕 組踊は演目を通して幕が一度も下りない「一幕もの」。背景には沖縄の伝統的な染物である紅型幕(びんがたまく)が用いられ、その後ろは地謡の定位置となっている
まとめ
こちらの記事では、「組踊を実際に見てみたい」という方へ向けて、以下の内容をお伝えしました。
- 組踊初心者向けに国立劇場おきなわが行う普及公演の解説パートは2種類。どちらも案内役が観客席からひとりを舞台に招いて組踊の出演者とし、組踊の基本をわかりやすく伝える。「解説 組踊の楽しみ方」は即興組踊としっかりした解説内容。「組踊版シンデレラ」はより親しみやすくお子さんと一緒に鑑賞するのもおすすめ
- 鑑賞におすすめの11作、特色ある多良間の組踊1作のあらすじ、見どころ
- 組踊の定期的な公演が行われている国立劇場おきなわ(浦添市)と那覇市ぶんかテンブス館の紹介
- 「きやうちやこ」「仮名掛け(かながけ)」など知っているとより楽しめる組踊に関する用語集
「伝統芸能は敷居が高い」「言葉がわからないかも」とこれまで敬遠されてきた方もおられるかもしれませんが、組踊は、琉球王朝時代の芸能の粋を集め、中国皇帝からの使者たちを歓待するためのエンタテインメント。
組踊は異なる言葉、異なる文化を持つ人々へ向けて作られたものなのです。言葉を理解するのが難しくても、琉球王朝時代の文化に詳しくなくても、充分に楽しめる内容になっています。
おもしろそう、と感じた作品から、ぜひ一度劇場でご覧になってみてください。この記事が、沖縄で組踊に親しむきっかけになれましたら幸いです。
記事監修協力:大野順美(一般社団法人ステージサポート沖縄)
参考文献
THE KUMIODORI 300 ~組踊の歴史と拡がり~(2019年 一般財団法人沖縄美ら島財団)
モモトVOL.41 特集 組踊(2019年 編集工房 東洋企画)
国立劇場おきなわ組踊普及書 組踊(平成23年 国立劇場おきなわ)
沖縄県文化財調査報告書第72号 沖縄の組踊(Ⅰ)(昭和61年 沖縄県教育委員会)
沖縄県文化財調査報告書第82号 沖縄の組踊(Ⅱ)(昭和62年 沖縄県教育委員会)
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