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東北と沖縄の伝統芸能の共演「北の魂、南の魂・神楽と組踊」

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 組踊とは

神楽と組踊、北の魂・南の魂

台詞、音楽、所作、舞踊によって構成され、中国皇帝の使者である冊封使(さくほうし/さっぽうし)を歓待するために玉城朝薫(たまぐすくちょうくん)により作られた、琉球舞踊や琉球古典音楽を盛り込んだ歌舞劇。

1719年、尚敬王の冊封儀礼のために訪れた中国使節を歓待する宴において初演されました。能・狂言・歌舞伎・中国伝統劇などの影響を受けたとされ、中国や日本の故事、琉球民話も反映されています。

彼の創作した「執心鐘入(しゅうしんかねいり)」「二童敵討(にどうてきうち)」「銘苅子(めかるしい)」「女物狂(おんなものぐるい)」「孝行之巻(こうこうのまき)」は組踊の傑作「朝薫の五番」として受け継がれ、後に生まれた様々な作品に影響を与えています。

1972年、組踊は日本復帰と同時に国の重要無形文化財に指定。2010年にはユネスコ無形文化遺産保護条約に基づく「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に正式登録されました。

上根子神楽(かみねこかぐら)とは

神楽と組踊、北の魂・南の魂、3. 上根子神楽(かみねこかぐら)

岩手県花巻市指定無形民俗文化財。花巻市上根子地区に伝わる、流れるような動きが特徴の円万寺(えんまんじ)流の山伏神楽(やまぶしかぐら/修験道の修行に励む山伏の手で伝承されていた獅子神楽のひとつ)。江戸後期には成立していたとされています。

毎年6月25日の上根子熊野神社例大祭をはじめ、元旦奉納や近隣神社での奉納神楽、観光客向け公演などのほか、毎年2月には、熊野神社氏子地区の家を1軒ずつ巡り権現舞を奉じる「春祈祷」も行われています。

北の魂、南の魂―神楽と組踊―とは

岩手の山伏神楽と琉球古典芸能を比較上演する舞台。

安珍清姫(あんちんきよひめ)伝説(紀州道成寺にまつわる伝説)の組踊「執心鐘入(しゅうしんかねいり)」と神楽「鐘巻(かねまき)」といった共通するテーマの演目から各々の独自性・魅力を探り、日本の伝統芸能を様々な観点から考える機会にと企画されました。

伝統芸能の振興につなげていこうと、出演者は若手を中心に構成されています。また、上根子神楽保存会は、2013年に東日本大震災復興支援のため「伝統芸能 夢の架け橋~北の魂、南の魂~」と題した琉球舞踊との合同公演を東京・月島で開催しています。

その感謝の思いを伝え、伝統芸能の担い手どうしの交流を深める意味も込められた公演です。

 何ができるの?

プログラムに沿って、あらすじや見どころをお伝えしたいと思います。

琉球舞踊 「かぎやで風(かじゃでぃふう)」・神楽 翁舞(おきなまい)」

かぎやで風は琉球王朝時代から伝わる祝儀舞踊で、沖縄では結婚披露宴のオープニングの定番として親しまれています。

本来は翁(おきな/おじいさん)と媼(おうな/おばあさん)が踊ることで長寿や子孫繁栄を願うもの。翁舞も長寿の象徴である老人の神が舞い、予祝(よしゅく/前祝い)の意味も持ちます。どちらもゆったりと荘厳な動きです。

かぎやで風は翁、媼ふたりの踊り。舞台に並んで座り、翁が太平の世や五穀豊穣、子孫繁栄を喜び祝う口上を述べて始まる舞は終始ゆっくりとした所作でどこまでも「静」の雰囲気。

神楽と組踊、北の魂・南の魂、かぎやで風

神楽と組踊、北の魂・南の魂、かぎやで風

神楽と組踊、北の魂・南の魂、かぎやで風

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翁舞は翁ひとりで行われます。かぎやで風に比べ動きが早く大きく、「動」の印象を強く感じました。
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神楽と組踊、北の魂・南の魂、神楽 翁舞(おきなまい)

組踊「執心鐘入(しゅうしんかねいり)」

玉城朝薫の傑作のひとつ。首里へ奉公に向かう少年・中城若松(なかぐすくわかまつ)が日暮れに道に迷い、ある家に宿を求めます。

執心鐘入(しゅうしんかねいり)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

その家の女はかねてから美少年と名高かった彼に恋心を抱いており、しつこく言い寄りますが中城若松はそれを拒否して逃げ出し、ある寺の座主によって鐘の中にかくまわれます。

執心鐘入(しゅうしんかねいり)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

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座主は小僧3人に中城若松が隠れた鐘の番を命じるのですが、「うるさい座主がいなければお互いに色々話せて楽しかろう」と話したり、番をしながら寝入ってしまったり、寝入ったふたりに残りのひとりがちょっかいを出したり、女性に同情して寺に入れてしまったりと、何とも人情味あふれる様子を見せます。

執心鐘入(しゅうしんかねいり)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

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追ってきた女は彼への執心から鬼へと変わり、最後には調伏されてしまいます。

執心鐘入(しゅうしんかねいり)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

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調子を取った台詞回しは何度か聞くと覚えてしまえるほど独特で、演者さんの技量によるものか、不思議に耳になじむものでした。

女性が募る恋心から少しずつ鬼へと変わっていく様子は所作や衣装、メイクなどでも表現され、恐ろしさとともに切なさも感じます。

女性の情の深さ、叶わぬ恋のやりきれなさなども感じさせる筋立てです。

 神楽「鐘巻(かねまき)」

寺に詣でたある女性が女人禁制と制止され、無理にでも参拝しようとするうちに狂い、蛇に変じてしまいます。そこへ山伏が現れ、調伏するという物語。

演者は台詞を発せず、「言立(いいたて)」と呼ばれるナレーション役がすべての台詞を担います。詣でた女性がお米を撒いて祈願する様子や、拒絶されて物狂いになっていく様子も時間をかけて表現されます。

鐘巻(かねまき)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

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社の前に置かれた赤い布は鐘の緒(紐)で、これを振り回し踊り狂う姿はただならぬ様子。

鐘巻(かねまき)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

鐘巻(かねまき)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

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一旦姿を消した女性が蛇となり、幕から這い出して山伏の足元に忍び寄るくだりはホラー映画のよう。

山伏や観客を睨め上げ、シュー、と威嚇するような異音を発しながら舞台を這い回り、ついには客席まで降りてきます!

鐘巻(かねまき)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

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これはおなじみの演出で、お膝元の花巻ではこのうえ子どもを舞台までさらっていくのだそう。混乱を避けるために今回は見送られましたが、まさかの事態に肝を冷やした観客も多かったかもしれません。

蛇の面は背筋が凍るほど恐ろしいと同時にとても悲しげで、時には泣いているように見える場面も。「女性だから」というだけで望みを絶たれてしまうことに対するやり場のない嘆きが、端々に表されているようでした。

神楽「権現舞(ごんげんまい)」

神楽の最後に必ず舞われる演目。

ほかの舞では舞い手が面をつけ、幕をくぐることで一時的に人以上のものに扮するのに対し、権現舞では面は用いられず、幕もくぐりません。

獅子頭に似た上根子熊野神社の祭神の権現と一体になって行う、災いを祓い、五穀豊穣・無病息災を願う祈祷舞です。

権現舞(ごんげんまい)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

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白い布や扇、さらには刀までも飲み込み、布は結んで、扇はたたんで、それぞれ舞い手のもとへ宙を舞って戻ります。切っ先から飲み込んだ刀は、柄の方から姿を現します。

権現の体内を通ることには浄化の意味もあるそうです。

権現舞(ごんげんまい)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

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手品や曲芸のような要素もありつつ、とても神聖な雰囲気のある舞でした。

権現舞(ごんげんまい)、神楽と組踊、北の魂・南の魂

出演者の声

上根子神楽と組踊、それぞれに出演されたお二方の声をお聞きしました。

上根子神楽保存会幹事・北山公路(きたやまこうじ)さん

たまたま訪れた沖縄で古典三線奏者の方とご縁が結ばれ、月夜の浜辺で聴いた音色に心を奪われたのが沖縄伝統芸能との出会い。

岩手と沖縄の伝統芸能を継ぐ者どうし、一緒に何かできないかと思案していた矢先、東日本大震災が発生。東京・月島で神楽と琉球古典舞踊の合同チャリティ公演「伝統芸能 夢の架け橋~北の魂、南の魂」を互いに交通費なども自己負担のうえで開催しました。

会場使用料などの経費を除いたチケット収入と多くの企業からの協賛金、観客から寄せられた志、合わせて55万円以上を被災地の子どもたちの進学支援を行う団体に寄付しています。

上根子神楽保存会幹事・北山公路(きたやまこうじ)さん

北山さん:2013年のチャリティ公演の恩返しにやっと来れました。前回も同様でしたが、若手中心の編成で、お互いに色々な違いから刺激をもらいつつ交流を深めるいい機会。
ジャンルは違えど伝統芸能にかかわる者どうし、とても通じ合うものを感じます。

次回は沖縄の皆さんに岩手まで来てもらって、一緒に公演したいですね。

舞踊家・福島千枝(ふくしまちえ)さん

「執心鐘入」中城若松役で出演。16歳のときに初めて訪れた沖縄で、様々な人、風景、文化に魅せられ、琉球舞踊を習い始めたのが第一歩。その後沖縄県立芸術大学に進学して琉球芸能を専攻、修士課程まで修めました。

現在は沖縄県内はもちろん県外でも組踊や琉球古典舞踊などの舞台に立ち、活躍の場を広げています。「執心鐘入」は、修士演奏(学位審査)の題材として選び、宿の女を演じた特別な思い入れのある作品。

舞踊家・福島千枝(ふくしまちえ)さん

福島さん:大学1年生の頃から授業でお稽古していた中城若松。たくさんの力ある立方(たちかた/演者)がおられる中、中城若松の役をこの舞台で初めて務められることは本当に光栄で、精一杯の力を注ぎました。

仲間をとても大切にする岩手の皆さんとの出会いはとても貴重なご縁だと感じています。ぜひまた一緒の舞台に立ちたいです。

詳細情報

開催日時
2019 年10月12日(土)
13:30開演

  • 琉球舞踊「かぎやで風」
    踊り手:真境名律弘、大湾三瑠
  • 神楽 「翁舞」
    舞手:平賀忠彦 太鼓:堀田龍也 笛:藤原直人 手平鉦:平賀航、北山公路 言立:北山大介
  • 組踊 「執心鐘入」
    指導:宮城能鳳 配役:中城若松/福島千枝、宿の女/又吉聖子、座主/伊野波盛人、小僧/仲村圭央・山崎啓貴・宮里光也、後見/親盛明佳里
    歌三線:眞榮田徹也、照屋武市、松川慶介
    箏:新垣和代子 笛:澤井毎里子 胡弓:大濱麻未 太鼓:我部大和
  • 神楽「鐘巻」
    舞手:北山健介、北山大介、藤原直人 太鼓:堀田龍也 笛:平賀忠彦、佐藤大輔 手平鉦:平賀航、新田彩乃 言立:平賀忠彦、北山公路
  • 神楽「権現舞」
    舞手:戸來大二郎、堀田龍也、平賀航 太鼓:北山健介 笛:平賀忠彦 手平鉦:北山公路

開催場所
沖縄市民小劇場 あしびなー
沖縄市中央2-28-1 コリンザ3F

お問い合わせ
ステージサポート沖縄
電話番号:070-5488-1863
合同会社オフィス風屋
kazeya.kitayama@gmail.com

入場料
前売3000円(当日3500円)
小学生から大学生まで1500円
※小学生未満膝上無料、3歳未満入場不可

アクセス

【車】
那覇空港から約1時間

カーナビ設定
マップコード
499 485 442*13

駐車場
あり 有料
※小劇場利用の場合5時間無料優待あり

地図

沖縄市中央2-28-1

ストリートビューを見る
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まとめ

沖縄の琉球組踊と岩手の上根子神楽のコラボ公演

沖縄の琉球組踊と岩手の上根子神楽のコラボ公演、いかがだったでしょうか。

「伝統芸能」「文化遺産」「無形文化財」…そういった肩書がついてしまうと、どうしてもまじめで堅苦しいものと考えてしまいますよね。でも実際に鑑賞してみると、今も昔も変わらない人々の悲喜こもごもの物語に観客を楽しませる演出も施され、とても娯楽性のある内容なのです。

組踊は中国皇帝からの使節のため、神楽は神への奉納のため、また、それを見守る人々のためにも作られたもの。数百年の時を経てもなお受け継がれ、愛されているものの根底には、普遍的な人の心の動きや願いを代弁する様々な表現に加え、「見る人のため」を思う気持ちが流れています。

また、ジャンルの違う伝統芸能を一度に目にすることができる舞台というのはとても贅沢なもの。ひとつの伝統芸能だけを見る場合に比べ、比較する対象があるのでそれぞれの特色や魅力がわかりやすく際立ちます。決められた型を守りつつ演者の持ち味を生かす組踊と、演者どうしのかけあいやライブ感を大切にする上根子神楽。

出演されたお二方も再演の希望を口にされていましたが、私もぜひまたこの舞台を見たいと考えているひとりです。

沖縄へ旅する方へ向けて、組踊が紹介されることはあまりありません。300年前に生まれた組踊に用いられるのは、沖縄に生まれ育った方でも理解が難しい古い形のウチナーグチ(沖縄方言)。

言葉の壁は確かに高いです。しかし、あらすじがわかっていれば物語の流れは追えますし、登場人物の所作や声の調子などでだいたいの内容は伝わってきます。日本語のみならず、英語や中国語、韓国語の字幕やオーディオガイド、初心者向けの解説を事前に行う公演も増えており、その門戸は広く開かれようとしているところです。

沖縄で楽しめることは本当にたくさんあります。美しい海をはじめとする自然や歴史的な建物、観光地などでできる体験もとても素敵なものばかり。その中に、沖縄の伝統芸能の舞台に触れる時間を作ってみるのはいかがでしょう。ほんの数時間が沖縄への理解を深め、旅の間に見、聴き、感じることをより鮮やかなものにしてくれるかもしれません。

組踊の公演は国立劇場おきなわを中心に行われ、劇場主催の公演にはすべて字幕がつけられています。沖縄芝居や民俗芸能などに加え、能など本土の伝統芸能の舞台が行われていることも。ぜひ、国立劇場おきなわの公演カレンダーをチェックしてみてくださいね。

国立劇場おきなわ

お問い合わせ
国立劇場おきなわ
浦添市勢理客4-14-1
電話番号:098-871-3311

ホームページ
国立劇場おきなわ

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この記事を書いた人

言葉、文化、自然、習慣、その他諸々にカルチャーショックと感動を経験しつつ沖縄に住むことかれこれ20年超。

すっかりなじんでいますが、一応九州産の移住者です。長く日常を過ごしているからこそ見える沖縄の素敵なもの、おもしろいものをご紹介していけたらと思っています。

大好物はおいしいもの、歴史を感じるもの、旅行、取材。必要に迫られ、大の苦手だった英会話を勉強中です。

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