耳抜きってなに?
耳抜きの原理
ではまず「耳抜き」とはいったいどのような作業なのかについて解説していきましょう。
耳の内部には鼓膜(こまく)の内側に中耳(ちゅうじ)と呼ばれる空気が入っている部分があり、中耳は耳管(じかん)と呼ばれる臓器で上咽頭(じょういんとう)と呼ばれる鼻の奥にある空間とつながっています。通常はこの耳管の開口部が閉じているため、気圧や水圧が低くなると、中耳内の空気が圧縮されて鼓膜が内側に引っ張られ、違和感や痛みが生じます。その痛みや違和感を解消するために耳管の開口部を開き、中耳内の圧力を平衡(へいこう)にする作業を耳抜きと言います。
ダイビングの耳抜きは飛行機や高所エレベーターと同じ原理
文章で改めて書かれると難しくて解りづらいとおっしゃる方も多いかと思います。ですが耳抜きは普段の生活の中で、すでに行ったことがある方がほとんどです。
例えば飛行機に乗った際の離陸と着陸時、もしくは高層ビルで高速エレベーターに乗った際などに、耳に違和感が生じたり、鼓膜が押されるような感覚を感じたり、痛みが生じたりすると思います。
その際に、各々何かしらの方法でその違和感を解消していると思います。まさしくこれこそが“耳抜き”です。
ダイビングの耳抜きも原理は同じなので、一度でも飛行機やエレベーターでの違和感を解消したことがある人は、同様の方法でダイビングの耳抜きも行うことができます。
耳抜きの方法
ではここからは一般的に練習しやすく、解りやすい耳抜きの方法をお伝えしていきます。耳抜きは耳が聞こえづらくなったり、「プツッ」という音が聴こえたりしたら成功です。
バルサルバ法
一般的にダイビングの講習や体験ダイビングの際に教わる方法です。
- 通常の呼吸をしながら鼻をつまんで鼻の穴をふさぐ。
- 鼻をつまんだまま、息を吸ったタイミングで息を止める
- 優しくゆっくり、そのまま息を吐こうとし続ける。
この時口の中に空気を送るのではなく、鼻をかむように耳に空気を送り込むイメージ。
目の横から空気が漏れやすい方は、目を閉じるとやりやすいです。
フレンツェル法
耳抜きに慣れてきた方や、フリーダイバーなどに多く用いられる方法です。
- 通常の呼吸をしながら鼻をつまんで鼻の穴をふさぐ。
- 鼻をつまんだまま息を吸ったら一旦止めて、舌の付け根を上あごにくっつける様にぐっと持ち上げる。
口の中に溜まっている空気を舌の付け根を持ち上げることで送り込むイメージ。
嚥下法(トインビー法)
- 通常の呼吸をしながら鼻をつまんで鼻の穴をふさぐ。
- 鼻をつまんだまま息を止めて、唾をのみ込むように喉をごくん、と動かす。
この3つの方法が一般的に練習することで習得できる耳抜きの方法です。
耳抜きは体質によってやりやすい方法が違う
まで一般的な耳抜きの方法をお伝えしましたが、耳抜きはこの3つの方法だけに限りません。
要は最初にご説明したように“飛行機や高速エレベーター乗った時に感じる耳の違和感を直すのと同じことをする”だけでいいのです。例えば今までお会いした方の中には
- 鼓膜を意識する。
- 耳を前後に動かす。
- 上を向く。
- あくびをするように大きく顎を開ける。
- 顎を左右に動かす。
- 何もしないで勝手に抜けていく。
- 耳の穴に指を入れる、抜く、を繰り返す。
などなど、様々な方法で耳抜きをする方がいらっしゃいました。
初心者の方や耳抜きに慣れていない方はインストラクターやスタッフに教えられたからと言って、バルサルバ法だけで耳抜きを行おうとする方が多いですが、抜けやすさやどの方法が向いているかは、個人差があります。
色々な方法を試してみて、自分のやりやすい方法を探してみましょう。
耳抜きを成功させるコツ
飛行機やエレベーターでは簡単にできるのに水中に入ると途端にできなくなる、という方も少なくありません。
ここではダイビング中に耳抜きを成功させるコツをお伝えいたします。
ダイビング当日や潜る直前に耳抜きをしてみる
耳抜きはその日の体調によって抜けやすさが変わります。
ダイビングポイントに向かう船の上や集合場所でも一度耳抜きができるか確認しておきましょう。
またエントリー直後は水温やスーツによる首の締め付けに体が慣れていないため、筋肉が緊張して抜けづらくなりやすいです。
そのためエントリー(水面に入った)直後は潜降する前に水面で一度耳抜きをしておくのも効果的です。
足から潜降する
インストラクターや慣れているダイバーはヘッドファーストと言って、頭を下にして潜っていく場合があります。
しかしヘッドファースト潜降の場合、水圧の急激な変化や体の向きの関係で、耳抜きがしづらい方も少なくありません。
耳抜きが不安な方や抜けづらいときは足を下にして潜降(フットファースト潜降)していくことで、耳抜きがしやすくなります。
とにかくこまめに耳抜きをする
耳抜きをするにあたって飛行機とダイビングの一番の大きな違いは、気圧変化の激しさです。飛行機内は急激な気圧変化で身体に負荷がかからないように、気圧変化が最大でも0.8気圧程度までになるよう、制御されています。
しかしダイビングは10m潜るごとに1気圧ずつ圧力変化が生じる上に、水深3mまでは特に気圧変化の割合が大きいのが特徴です。
つまり、飛行機の際に5~6回程度耳抜きを必要とする方であれば、ダイビングの際には30~40㎝潜降する度に、こまめに耳抜きを行う必要があります。
耳抜きに慣れていない方や初めての方は、潜降ロープやはしごを使用して、はしご一つ分、もしくは握りこぶし3つ分降りたら耳抜きをするなど、こまめに耳抜きをしていくことでダイビング中の耳抜きを成功させることができます。
リラックスして力を抜いて行う
最初の原理でお話した通り、耳抜きは耳管を開けて空気を送り込んであげる(気圧を平衡にする)作業です。そのため、力ずくで行うと逆に顔や首の筋肉に力が入りすぎて筋肉が硬直し、抜けづらくなります。
また、力ずくで行うと毛細血管を傷つけて鼻血を出してしまったり、空気を送り込みすぎて鼓膜を傷付けたりしてしまう原因になるので、耳抜きを行う際はリラックスしながら、力を抜いて、優しくゆっくり行いましょう。
片耳だけ抜けたタイミングでやめない
耳抜きが苦手な方の中には、「片耳だけ抜けてもう片方の耳が抜けない」とおっしゃる方がいらっしゃいます。耳抜きは体質や体調によって個人の抜けやすさが違い、左右差がある方も非常に多いです。
片耳が抜けづらい場合は、抜けやすい側が抜けたタイミングで耳抜きをやめるのではなく、そのまま更にゆっくり抜けていない方の耳に息を送り込むイメージで諦めずに続けてみてください。
バルサルバ法で片耳が抜けたら、そのまま嚥下法を行うともう片方が抜ける、などお伝えした方法のうち何種類かを組み合わせると抜ける方もいらっしゃいます。
できないからと言ってすぐに浮上せず、一旦落ち着いて挑みましょう。
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