窯口
前回もお伝えした通り、窯口を焚くのは約19時間半。私が伺ったのは13時間ほどが経過し、残り約6時間となった頃でした。
すすや薪の破片、灰が激しい炎の跡を残す窯口。内部では炭化した薪の間に目がくらむような赤、オレンジ、黄色の炎が渦巻いています。近づくと熱さを通り越して痛みを感じるほどの熱でした。
温度計などはなく、陶工たちは刻一刻と変化する炎を見つめています。くべる薪の大きさを変え、内部の薪を動かし、空気を送る。緊張の連続であろう作業を繰り返しながら、窯全体をゆっくりと温めていきます。
ちなみに、窯口の上に並んでいる楕円形のものは、窯焚き中になくてはならない道具。
後ほど彼らの健気な役割もわかります。がちまやー(食いしん坊)の私は一瞬食べ物かと思ってしまいました・・・。
余談はさておき、当番が終わる際には、土埃と灰が目立つ窯口周辺を掃き清め、次の当番の工房へ引き継ぐ姿もありました。窯への尊敬、工房間の心遣いが表れている一幕でした。
各袋の焚き上げ
翌々日、11月30日の早朝4時に伺った際の写真がこちら。
焚き終えられた窯口にはレンガが積まれ、窯焚きは各袋へと移っています。私が到着したのは9番目の袋が焚き終わる少し前のタイミングでした。8番目までの袋は焚き終えられ、すすで黒く変色している部分が目立ちました。薪の投入口などには蓋がされています。火入れの日には天井までぎっしりと積まれていた薪はほとんどなくなっていました。
最初に目を奪われたのはこの光景。
窯の中から、炎そのもののような塊が取り出されています。
色見(イロミ/イルミ)と呼ばれるこの小さな壺は、袋の中の火の回り具合、温度の上がり具合などを見るために使われるテストピースです。これを取り出すための穴が色見穴(イロミ/イルミあな)。各袋、屋根に近い部分に開いている小さな丸い穴です。普段は袋の中を照らすための電球が入れられることも。
窯から取り出された色見は外気に触れて徐々にその素地の色、釉薬の色を表します。
左手前の壺の色の変化に注目してください。
最初の写真から最後の写真まで、たった2分のできごと。
この壺の様子から窯の温度や火の入り具合、くべる薪の本数、焚き終わりのタイミングなどを判断します。袋や日時を記録している工房もありました。
薪の投入口から見た窯の内部の様子はこちら。
近づいたのは一瞬ですが、1270度にも達する炎の熱気は命の危険を感じるものでした。
さて、先ほど私が食べ物と勘違いしたものは、薪の投入口や色見穴の蓋。
炎に炙られ、真っ黒に焦げて、割れてしまうことも・・・。
この蓋を開け、薪をくべていきます。窯をはさんで左右にひとりずつ、お互いの姿は見えないため、声をかけあいながらの作業です。凄まじい熱と光を前にしながら火勢を見定め、必要な場所に必要な分の薪を送る陶工の姿。時折、激しく噴き出す恐ろしくも美しい炎。息をのんで見入ってしまいました。
焚き終わり
登り窯の最後尾、13番目の袋の中から出てきた色見の中には、表面がぶつぶつになっているものがありました。
この凹凸は「ぶく」。火が強すぎる場合に見られるもののようです。
登り窯での窯焚きは下の袋の焚き方はもちろん、天気や風、空気の乾燥具合などの影響も大いに受けます。今回は早めに進んでいたようで、13番目の袋は約1時間で焚き終えられていました。
最後の袋を焚き終えると、メーガニク(前兼久)という土を使い、窯口もしっかりと密閉。
窯焚きという大仕事を終えた登り窯にはあちこちにすすがつき、大小のひびも見られます。蓄えた熱をゆっくりと冷ますために費やすのは、焚き上げにかかった時間と同じ4日間。
次回はいよいよ焼き上がりです。まだ熱の残る作品を窯から取り出す窯出しの様子をお伝えします。
まとめ
窯焚き2日目、最終日4日目の様子をお送りしました。
噴き上がる炎のオレンジ色や小さな火の玉のような色見。見上げた夜明け前の空のすがすがしさ。薪の爆ぜる音や虫の鳴き声。
五感を研ぎ澄ませ、窯と炎に一途に向き合う陶工の姿。
写真を整理していると、シャッターを切ったその時々の感覚がまざまざと思い出されます。
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丸4日間続く窯焚きのうち、私が足を運び、実際に目にしたのは2日にも満たない時間で、ほんの一部にすぎません。私が気づかなかった、見られなかった工程や、携わる方々の思いがまだまだたくさんあると思います。そういったことにも想像を広げながら読んでいただけたら幸いです。
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次回は窯出し編。こちらもご覧ください。
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