キーツはどんなマンゴー?
ポピュラーなアーウィン(アップルマンゴー)は熟すると赤くなりますが、キーツマンゴーは完熟しても緑色のまま。また、アーウィンに比べ約2倍の大きさに育ちます。収穫後の追熟が必須なのですが、果皮が緑色からあまり変化しないので食べごろの判断がとても難しいマンゴーです。正しく追熟すると、糖度は20度ほどにもなり、ジューシーで濃厚な味わい。
以前は収穫量が非常に少なく「幻のマンゴー」とも言われていましたが、徐々に流通量を増やし、現在ではアーウィンの旬が終わりに近づく頃にスーパーや直売所の棚にも並び、ギフトとしても用いられるようになってきています。
キーツマンゴーの特徴
果皮の色ー緑色(熟してくるとやや黄色っぽくなるものも)
果肉の色ー濃いオレンジ色
形ー大型の卵型
味ー甘みが強くやわらかくジューシー。酸味が少なく、熟すると香り豊かだが未熟なときは香りがない
糖度ー18~20度ほど
収穫時期ー8月下旬頃~9月中旬 ※旧暦のお盆頃から
レッドキーツについて
「レッドキーツ」として売られているマンゴーも時折見かけますが、実は「レッドキーツ」は品種名ではなく通称のようです。果皮が少し赤くなるタイプのキーツである場合もあれば、それ以外の、キーツと形が似ていて果皮が赤くなる品種である場合も。
様々な品種が混在している可能性があり、特徴をしっかりとご紹介できないため、「レッドキーツ」については今回の記事では触れません。
キーツの収穫時期・食べごろの基準
収穫時期と食べごろの判断が難しいキーツ。生産者の経験に頼る部分が多い状況を改善しようと、「取り頃(収穫時期)」「食べ頃」の判断基準を示した、沖縄県農業研究センター名護支所・宮古農政・農業改良普及センター・沖縄県農業研究センター名護支所による調査報告があります。
参考
熱帯果樹マンゴー(キーツ種)の熟度判定技術の開発 第2報 収穫後の食べ頃表示技術の開発
比嘉淳・砂川喜信・貴島ちあき・屋良利次・伊山和彦・伊志嶺弘勝・與座一文
こちらによると、
「取り頃(収穫に最適の時期)」
果実が長径5cmになってから110~130日後。
クエン酸(酸味のもと)とデンプンが減少(糖分へと変化)し、果肉硬度の指標である果実打音の伝播速度が遅く(=果肉がやわらかく)なるため。
「食べ頃」
収穫から8日後。糖度がピークを迎え、果肉も適度にやわらかくなるため。
とはいえ、こちらの基準にのっとって収穫・出荷されたものなのかは、生産農家から直接購入できる場合を除き、直売所などで購入する私たちにはわからない場合がほとんどです。
- 収穫時期の判断が難しく早めに収穫される傾向にある
- 収穫日がわかるものは8日後が食べごろになる可能性大
ということを前提に、食べごろを見極める知識が必要になります。
藤田さんが解説、キーツの選び方・追熟方法・食べごろサイン
収穫後の追熟が必須、さらに果皮の色が緑からあまり変化せず熟れていないうちは香りもないというキーツ。おいしい果実を選ぶのも、上手に追熟させるのも、食べごろのサインをキャッチするのもとても難しいです。
マンゴーにたずさわって2021年で13年のキャリアを持つ藤田さんに、キーツについて色々と教えていただきました。
20度にもなる糖度と濃厚な味わいを持つキーツの見分け方を学んでいきましょう。
【選び方】へたのまわりと丸さが肝心
まずはおいしいキーツの選び方。店頭で見るべきポイントはふたつだけです。
- 全体的に丸々としてハリがあるもの(扁平でなくボールのように丸みのあるもの)
- へたの周囲が盛り上がっているもの(へたがくぼんで見えるもの)
果皮が緑色からほとんど変化しないため、収穫時期や食べごろの見極めは農家さんでも苦労するほど。味わいを外見から判断するのはとても難しい品種です。また、キーツはほとんどの場合追熟が必要な状態でお店に並んでいます。完熟前は香りがほとんどないため、香りからの情報も得られません。
キーツは未熟な状態ではほとんど香りがなく、香りから味わいを判断することはできません。お店に並んでいるものは未熟な状態のものがほとんどなので、形からしか情報を読み取れないようです。
扁平な形のもの、へたの周囲に盛り上がりが見られないもの、ハリがなく表面にしわが寄っているようなものは避けた方がいいでしょう。
【追熟方法】低温・乾燥を避け、傷みに気をつける
キーツは収穫後に追熟が必須です。通常、購入後すぐには食べられず、寝かせる必要があります。
直射日光や乾燥を避け、冷蔵庫に入れず室温で食べごろのサインが出てくるまで待ちましょう。毎日果皮の色や香り、手触りをチェックして、細かな変化を見逃さないようにしてくださいね。
- 直射日光の当たらない、25~30度程度の環境(20度以下では追熟が難しい)
- 乾燥を避ける(沖縄ではそのままでOK。本土など湿度の低い地域で追熟させる場合は濡らした新聞紙にくるむなどの工夫が必要)
- 1kgほどの大玉は下になった部分が重みで傷みやすいので、タオルなどやわらかいものの上に置き、時々向きを変える
私の場合、追熟はだいたい30度ほどで行っています(沖縄の夏の室温はクーラーをかけなければこのくらいです)。へたの部分がいちばん強いので、そこを下(自然に木になっている状態とは反対向き)にして追熟させたりすることも。この場合、向きを変えたりしなくても大丈夫です。安定しないときは箱や壁にたてかけて置いています。
ただ、へたの周囲にキズなどがある場合などは傷んでしまう場合があるので、その場合は普通に置いて追熟させてください。
【食べごろの見極め】視覚・触覚・嗅覚を研ぎ澄ませて
直売所などに並ぶキーツマンゴーに添えられている情報は統一されておらず、
- 「〇日頃が食べごろ」といった目安となる日付が示されているもの
- 「押してみて弾力があり、甘い香りがしてきたら」といった大まかな食べごろの目安を示しているもの
- 収穫日を示しているもの
- 何の説明もないもの
などが混在している状態です。
「〇日頃が食べごろ」といった目安が添えられていた場合でも、追熟の進みぐあいによっては早すぎたり遅すぎたりといったこともあります。収穫日が記載されているものに関しては8日後が一応の目安となりますが、収穫されたときの状態により同様のことが起こります。
色合い、感触、香りからしっかり見極めなければなりません。
食べごろに出るサイン
- 触るとやわらかく弾力がある
- 甘い香りが漂う(近づいただけでも香るほど)
- 表面のブルーム(白っぽい粉のようなもの)が消えてつやのある緑色になる、または、やや黄色がかってくる
もう少し待つべきサイン
- 触ると硬い(大根やかぶのような感触)
- 甘い香りがまったくしない、またはとても弱い
- 果皮が緑色で全体にブルーム(白っぽい粉のようなもの)でおおわれている
農家さんにも追熟の予想が難しいキーツは「〇日頃が食べごろ」といった記載も目安にしかならず、収穫日から8日間といった基準も当てはまらない場合が多々あります。信じるべきは自分の感覚。
「触ると弾力を感じる」
「甘い香りがする」
「果皮につやが出る」
といったサインを見逃さないようにしてくださいね。私は、この中でも特に香りを重点的にチェックしています。
香りは味とダイレクトにつながっていると思いますよ。
取材当日、切って試食したキーツ・玉文・キンコー・金蜜の詳細
こちらの記事のため、1週間前に北部のファーマーズマーケットでマンゴーを買いつけ、取材当日は2時間以上にわたって藤田さんとマンゴーを切っては糖度を測り、試食しました。
キーツのみならず玉文(ぎょくぶん)・キンコー・金蜜というレアな品種に関しての情報も得られたので、簡単にですがまとめておきます。
「あたり」「はずれ」の大きいキーツ
アーウィンに関しては未熟な状態でも完熟後の味や糖度の予測を外さない藤田さん。
しかし、「キーツはとても難しい」という言葉どおり、やはり見極めが難しいようでした。藤田さん自身が選んだものでも追熟しなかったり、しわが寄ってくる(木が虫害を受けている)ものがあったり。ただし、キーツはもともとの糖度がアーウィンに比べて高いため、酸味とのバランスにもよりますが非常においしく感じられる場合もあります。
事前に藤田さんが購入し、追熟を終わらせて冷蔵保存していたものは糖度16度ほど。酸味も適度にあり爽やかな味わいでした。
一方、1週間前に購入したミニキーツ(アーウィン同様キーツにもミニサイズのものがあります)は、木が虫害を受けており追熟中に表面にしわが出てきてしまいました。購入段階では表面に変化がなく、後から現れてくるもので、藤田さんにも予測ができなかったそうです。
しかし、糖度は何と20.6度。通常のものに比べて、小ぶりなものの方が糖度が高くなる傾向はアーウィン同様のようでしたただ、こちらは少し「はずれ」であったため、糖度のわりには味わいは薄く、むしろ糖度16度だったものの方が「おいしい」と感じられました。
「糖度が高い=おいしい」ではない
マンゴーの糖度は高ければ高いほどいいのでしょうか。「おいしさ」という点から言えば、答えはNoです。糖度が高くても味わいが薄ければさほどおいしくは感じません。逆に、糖度は平均的でも濃厚な味わいを持つものはおいしいと感じるでしょう。非常に糖度が高い場合、適度な酸味がなければただただ甘く、2切れほど食べると「もういらない」と思ってしまう場合もあります。
糖度だけでなく、酸味なども含め、全体的な味のバランスが大切なのです。
衝撃的な糖度となめらかさの玉文
今回色々な意味で驚かされたのがこちら。まだ収穫量も流通量もかなり少ない玉文は情報がなかなかなく、インターネット上でも「とにかく甘い」という評価しか見つけられませんでした。藤田さんにうかがうと、やはり「とにかく甘い。最後に砂糖のような後味が残る」とのこと。
こちらは特にしわや大きな黒点もなく、外見もきれいな状態でした。切った瞬間、藤田さんが「つるんと滑るような感触で、ほかのものと全然違う」と驚いた様子。確かに普通なら繊維が微妙な凹凸を作っている断面が、磁器のようになめらかでした。
果肉の色は明るい黄色。アーウィンやキーツとはかなり違っています。
糖度を測ってみると、目を疑うような数字が。
28.5度です。アーウィンの糖度はだいたい15度ほどなので、約2倍ということになります。
食べてみると、見た目通り繊維がほとんど感じられずとてつもなくなめらか、そしてとてつもない甘さ。少し酸味も感じるへたに近い部分は和三盆糖、先端の部分は黒糖のような甘さです。飴を口に含んだような感覚に襲われました。
種が非常に薄く、食べられる部分が多かったのもとても驚きでした。
糖度高めながら爽やかな味わいのキンコー
先端の方に収穫時についてしまったと思われる圧迫痕がありましたが、大きな問題なく追熟したキンコー。購入時はキーツのような緑色でしたが、全体に黄緑色っぽくなっていました。切った感触は玉文と同様なめらか。糖度を測ると、19.3度でした。
玉文の衝撃的な糖度を見た直後だったため誰も驚きませんでしたが、かなりの糖度です。
こちらも繊維がほとんどなく食感はとてもなめらか、「杏仁豆腐のようだ」という感想も。大型ゆえに場所によって味わいにばらつきはありましたが、総じてしつこくなく爽やかな味わい。とてもおいしかったです。
玉文に次ぐ糖度、やや繊維が多い金蜜(くがにマンゴー)
美しい黄色の小ぶりなマンゴー・金蜜は、1玉がとても残念な状態になってしまいました。
これは、木が揺らされた衝撃で果実の軸の周囲が腐ってしまう現象で、「軸腐れ」と呼ばれています。台風後に多発しますが、追熟の過程で少しずつ進行していくため、収穫時にはわからないものなのだそうです。
確かに購入した際はとてもきれいで、まさかこうなってしまうとは想像もつきませんでした。
包丁を入れると、繊維が多く切りにくい様子。ジャリジャリと音がしていました。
糖度計が示したのは、26.1という数字。玉文に迫る糖度で確かに甘さは感じるのですが、味わいはマンゴーではない、新しいフルーツのようなものでした。
傷んでいないものを切ってみると、もう少し繊維は少ない印象で、糖度は20.8度。あと数日追熟が必要だったかもしれないのですが、すっぱさの方が印象に残りました。
ミニマンゴーほどの大きさですが、種はわりと分厚く、繊維も多めなので、食べられる部分はほかの品種に比べて少ないかもしれません。
まとめ
こちらの記事では、藤田さんに解説していただきながら、
キーツの特徴は熟しても緑色の果皮で、食べごろや味わいの判断がとても難しい。アーウィン(アップルマンゴー)に比べて大型で遅い時期に流通する。以前は「幻のマンゴー」とも言われていたが、最近では農産物直売所やスーパーなどでもよく目にするようになった
キーツの「取り頃」は果実が長径5cmになってから110~130日後、「食べ頃」は収穫から8日後という報告があるが、この基準が各農家に周知されているかどうかは不明
おいしさと食べごろを見極める5つのポイント
- 選び方:全体的に丸々としてハリがあるもの(扁平でなくボールのように丸みのあるもの)
- 選び方:へたの周囲が盛り上がっているもの(へたがくぼんで見えるもの)
- 食べごろサイン:触るとやわらかく弾力がある
- 食べごろサイン:甘い香りが漂う(近づいただけでも香るほど)
- 食べごろサイン:表面のブルーム(白っぽい粉のようなもの)が消えてつやのある緑色になる、またはやや黄色がかってくる
追熟方法:低温・乾燥を避け、大きなものは時折動かして重みで傷むのを防ぐ
また取材当日、藤田さんが切って糖度を測り、試食したキーツ・玉文・キンコー・金蜜(くがにマンゴー)の味わいや特徴などをまとめました。
ファーマーズマーケットやスーパーなどで販売されているキーツは、特徴を充分理解したうえで、「あたりが出るといいな」といった気持ちでご自宅用に購入されるのがいいと思います。ギフト用に購入することは、私はおすすめできません。
未熟な状態では香りがほとんどないため味の予測や完熟時期の判断が難しく、アーウィンではかなり正確に予測できる追熟の過程や味わいが、キーツでは本当にわからないからです。形もよくおいしくなるだろうと考えていたものが追熟しなかったということも起きたりします。
お客さまの大切な方へお届けするギフトであるマンゴーに、「おいしくなかった」「熟さなかった」「腐ってしまっていた」といったトラブルは絶対に起こしてはいけないと思っています。だから、現段階では、私のお店ではキーツは扱っていません。
アーウィンに比べ糖度が高めで珍しい品種ですが、現段階では、キーツは味わいや食べごろの見極めがとても難しく、品質にもばらつきが大きい品種。ご自宅で、「これはおいしいかな?」とそのばらつきを楽しみながら味わうのに向いたマンゴーと言えるかもしれません。
また、以前にキーツを買って「おいしくない」と感じたことがあるなら、それは追熟が足りなかったか、「はずれ」をひいてしまった可能性が高いです。形を見極め、追熟の度合いを見極められれば、とてもおいしいキーツを味わえるかもしれません。ぜひ、この記事を参考に、キーツ選びにチャレンジしてみてください。
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