狭間(さま/炎の通り道)を作る
登り窯の袋(ふくろ/焼成室)は狭間と呼ばれる炎の通り道でつながっています。熱と炎を効率よく上に連なる次の袋に伝える重要な部分です。窯の中でも特に高温の激しい炎にさらされるため、最も耐火度の高い36のレンガが主に使われます。
積み始めるのは、レンガ1個分ほどのスペースを空けたところから。これは、重力などで壁が歪んだりするのを最小限に防ぐためです。
基礎と面を合わせて積んだ場合はこちら。壁が前面に向かってふくらみ、倒れてきています。
レンガ1個分を空けて積んだ場合がこちら。壁はまっすぐのまま、歪みもほとんどありません。
レンガどうしの接地面にモルタルを塗り、1段ごとにレンガの組み方も変えて強度を高めます。
時折木材を当てて歪みや浮きを補正したり、微妙なずれや残存部分との兼ね合いでレンガを削ったりといった調整もすべて手作業でこなしながら、5段目までが組み上がるまで約半日。
翌日の午前中には中央を空けて前後にさらに2段のレンガが積まれ、狭間が完成しました。
耐久性を高めた壁作り
お待たせいたしました。狭間の前回の記事でさせていただいた、こちらの図に隠れている窯を長持ちさせるポイントは何で、何のためなのか、という質問の答えです。
「何」→微妙な角度。
「何のため」→重力などによる壁の前傾を防ぐため。
傾斜地に築かれる登り窯の屋根は自然と下へと流れ、壁を圧迫して前傾させていきます。それをあらかじめ想定し、垂直ではなくやや後方に反らせた形で壁を作るのです。狭間を積み始める位置とともに、耐久性を高める工夫が盛り込まれます。
親方はその角度の目安になる道具も作成。
これに合わせて積まれた壁がこちらです。少し後方に傾いているのがおわかりいただけるでしょうか。
作業に立ち会えず実際の様子は目にしていませんが、バランスを保ちながら少しずつ角度をつけ、レンガを積んでいく作業にかなりの集中力と技術が必要なことは想像に難くありません。
それでも、狭間が仕上がってからほぼ1日という早業で大半が仕上げられていることには驚くばかりでした。
部分的な解体のため、残存部との連結もひと仕事。不規則な形に合わせてレンガを削ったり、隙間を埋める小さな破片を探したり、手間のかかる地道な作業の積み重ねでもありました。
入口に琉球石灰岩を積む
解体の際、頑丈に固定されていて撤去に苦戦した石組みも再構築します。
基礎にブロックを入れ、モルタルで固定。
窯の外に仮置きされていた琉球石灰岩を運びこんでモルタルも加えつつ積み上げていくのですが、複雑な形の自然石ゆえにこれがなかなかの難問。
大きめの石をいちばん下に据え、その上に大小様々な石を安定するものどうし組み合わせていかなければなりません。北窯の敷地から新たな石も運び、積んでは崩し、崩しては積み、試行錯誤が続きました。
数時間後、おおよそ定まった形がこちら。
約1週間後、さらにレンガの高さまで石を積んで完成した状態がこちらです。
おわりに
こちらの作業と並行して、ブーラ(火入れの際、窯の入口をふさぐのに使う大きなレンガ)作りも行われていました。
わらを混ぜた原土をハンドボールよりも一回りほど小さいだんご状に丸め、
新聞紙を敷いた台の上で粘土を両側に把手のついた枠に詰め、突き固めます。
枠の大きさぴったりの板で押さえつつ慎重に抜き取ります。
前回お伝えした「にんじん」も同様ですが、窯にかかわるほとんどのものを自らの手で作り出し、工夫を重ねている北窯には毎度驚かされ、考えさせられることばかりです。
自分の手で作り、改善し、修理し、再利用する。その在り方は、何かが欲しいと思ったら買いに行き、壊れたら捨てるということが普通になってしまった現在にあって、とても稀有なもの。
北窯を訪れる際には、ぜひそういった部分にも注目していただけたら、と思います。
徐々に完成形が見えてきた登り窯。次回は屋根作りの様子をまとめます。身近にあるものを使って形作るアーチ、そしてようやく出番となるにんじんはどのように使われるのか。
楽しみにお待ちください。
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