2019年10月31日2時34分。
首里城正殿北東側から上がった炎は、正殿を焼き尽くし、周辺にある北殿、南殿、書院・鎖之間(さすのま)、黄金御殿(くがにうどぅん)、二階殿、奉神門にも延焼。30年の歳月をかけて再建された建物と収蔵されていた貴重な文化財の一部を飲み込みながら、同日13時半に鎮火されるまで11時間にわたって燃え続けました。
未明の空を赤々と染める業火に沈んでいった首里城の姿。日が経つにつれ明らかになっていく無残な姿と計り知れない被害、再建への険しい道のり。
それらは沖縄に住む人々、沖縄にルーツを持つ人々、沖縄に思いを寄せる人々に大きな衝撃と言葉に尽くせない痛み、悲しみをもたらしています。一方で、県内・国内のみならず世界中からたくさんの温かい心と支援が寄せられ、強い願いと意志のもと再建への歩みも進められようとしています。
今回ご覧に入れるのは、この大火の4日前、首里城祭の一環として国際通りで行われた琉球王朝絵巻行列の様子です。
こちらを皮切りに、本来ならば11月3日まで首里城公園の園路や周辺の道々を彩る「万国津梁の灯火」、国王と王妃が正殿前の広場・御庭(うなー)で謁見を行う「国王・王妃出御」や首里城下を練り歩く「古式行列」など様々な催しが行われる予定でした。
組踊上演300周年を記念した「二童敵討」「執心鐘入」の公演も幻となってしまいました。
琉球王朝の歴史と文化の輝きを伝え、那覇大綱挽(なはおおづなひき)、那覇ハーリーとともに那覇三大祭りのひとつに数えられる秋の風物詩である首里城祭。
来年以降開催されるのかどうか、それすらもわからない状況です。
そんな今だからこそ、首里城が再び美しい姿で甦ることを願いつつ、こちらの記事をまとめました。最後までご覧いただけましたら幸いです。
2018年の過去記事はこちら
琉球王朝絵巻行列とは?
沖縄のメインストリート・国際通りを舞台に、琉球王国時代、中国皇帝の代理人として訪れる柵封使(さくほうし/さっぽうし)を迎え、首里に戻る行列が一大絵巻行列として再現されます。
毎年一般公募の中から選出される国王・王妃の行列、中国皇帝使節団行列、伝統芸能行列まで、約2時間にわたって華やかな琉球王国の雰囲気を味わうことができます。
- 第1演舞場(出発地点、ホテルニューおきなわ前)
- 第2演舞場(一銀通り入口付近)
- 第3演舞場(ホテルJALシティ前)
- 第4演舞場(むつみ橋前)
- 第5演舞場(てんぶす那覇前)
の5つのポイントでは、伝統芸能の演舞も行われます。
第4演舞場は道幅が広く演舞も見やすいポイントです。本部が置かれる第5演舞場は少々混み合う印象ですが、行列の由来や衣装、道具の持つ意味、伝統芸能に関しても日本語および英語でわかりやすく解説が行われます。
琉球王国やその文化について知り、より深く楽しみたい場合にはこちらがいいでしょう。
何ができるの?
一般公募(後述、詳細あり)の180人も含む総勢約700名が参加した古式ゆかしい行列。順を追って見てみましょう。
琉球国 国王・王妃行列
まずは歌・三線隊が姿を現します。
三線は三味線に比べ竿が短く、ニシキヘビの皮を張っていることが特徴。演奏も披露されます。
[embedyt] https://www.youtube.com/watch?v=mtRbhTG0ZEU[/embedyt]
歌三線隊
銅鑼(どら)を鳴らし、これから国王が通ることを知らせます。
[embedyt] https://www.youtube.com/watch?v=9f0NnOSTgQU[/embedyt]
中国皇帝の命によって来たことを示す「令」という字旗と、その後ろに続く路次楽(ろじがく)。行列の際に演奏される独特の音楽です。
貴人の行列に付き添う武器を持った一団、儀仗(ぎじょう)。
国王・王妃が登場。
輿は轎(ちゅー)といいますが、敬って御轎(うちゅー)または御轎椅(うちゅーい)と呼ばれていたそうです。こちらを担ぐのは、沖縄の陸・海・空の自衛官のみなさん。頼もしい限りですね。
王妃の周囲はあでやかな赤い衣装の女官で固められます。
見事な文様の入った冠(かんむり/ハチマチ)を被った国相ともいわれる王子の位、摂政(せっしょう)。国王に次ぐ国政の責任者で、国王の兄弟や王族から任命されたそうです。
後に続くのは官吏たちで、紫、黄、赤など、位によりハチマチの色が違っています。
「中国皇帝使節団行列」
行列は中国からの使者たち、「中国皇帝使節団行列」へ。柵封使は一流の学校で学問を修め、最新の技術や文化、芸術に関する知識も豊富なエリートが任命されるもので、滞在中、琉球王国の官吏たちは彼らに様々なことを学んだということです。
路次楽(ろじがく)。哨吶(そーな/チャルメラ)、喇叺(らっぱ/馬ブラ)、銅角(どうかく/牛ブラ)、鼓(くう)、銅鑼(どら)、両班(りゃんはい)などが使われています。
「粛静」「廻避」の文字が入った牌(ぱい)は沿道の人々に道をあけ静かにすることを呼び掛けているものだそうです。後ろには、虎、人物、龍、雲、龍条旗も続きます。
清王朝の辮髪(べんぱつ/頭髪の一部を残して剃り、残した頭髪は長く伸ばし三つ編みにしする。僧侶などを除く男性のみに行われた)や服装なども独特で見ごたえがあります。
使者に授けられる節(せつ/皇帝の命を受けた使者であることのしるし)や皇帝から琉球国王への詔勅(しょうちょく/皇帝が発する文書)が載せられる龍亭(りゅうてい)、皇帝から国王・王妃へ、夏冬の官服を作るための生地が載せられている綵亭(さいてい)。
正使・副使 正使は皇帝の名代。国王任命の儀式を受けるまでは国王も拝跪(はいき/ひざまずいて礼拝すること)して出迎えます。こちらでも、沖縄の陸・海・空自衛官のみなさんが活躍。
行列参加者は一般公募あり!
行列の一部は一般から募った参加者で構成されています。応募資格は16歳以上で身長160cm以上であることのみ。沖縄県内はもちろん、県外からの参加もOKということです。かつらをかぶったり、女性が男性の役を演じたりすることもありますが、当時の衣装を身につけ、琉球王国時代の雰囲気を行列の中から楽しむのは貴重な体験になりそうですね。
2019年の募集は8月末の公開で9月30日締切でした。
応募に関して、少し情報を載せておきますので参考になさってください。
応募資格:年齢16歳以上、身長160cm以上。県内外在住問わず
募集期間:令和元年9月30日(月)まで ※当日消印有効
応募方法:往復ハガキ、FAX、電子メール
集合:8:00(開南小学校)予定
応募詳細
「伝統芸能行列」
2019年の「伝統芸能行列」では、那覇市、八重瀬町、糸満市、読谷村、うるま市、北谷町といった沖縄県内各地の伝統芸能が次々と披露されました。
先頭は五方旗(ごほうき)。方角を表す青龍(せいりゅう/東)・白虎(びゃっこ/西)・朱雀(すざく/南)・玄武(げんぶ/北)に国王を表す黄色を加えた旗です。
伝統芸能の幕開けは、若衆踊隊。若衆とは十代の士族の少年のこと。元服前、15歳以下の少年たちによって舞われていたものだそうです。
花笠(はながさ)に黄色の紅型(びんがた)もあでやかな四つ竹隊。祝いの席の座開きとして踊られる華やかな祝儀舞踊です。
[embedyt] https://www.youtube.com/watch?v=JadYQl_RyeY[/embedyt]
読谷村の座喜味棒保存会による演武。衣装は経済産業大臣指定伝統的工芸品(原材料や技術などを継承しつつ、時代や環境の変化に対応して作られている工芸品)の読谷山花織です。
[embedyt] https://www.youtube.com/watch?v=Z_i9kVqoXCM[/embedyt]
八重瀬町小城(こぐすく)棒術保存会による演武。
[embedyt] https://www.youtube.com/watch?v=JxPdA7NUQJw[/embedyt]
19歳から24歳の15名による糸満市大里青年会(糸満市)のエイサー演舞。
通常チョンダラー、サナジャーなどと呼ばれる道化役を、こちらでは「ざんめい」と呼ぶのが特徴。足元や衣装のところどころに結ばれた赤い紐が目を引きます。
[embedyt] https://www.youtube.com/watch?v=-8lAk0yy3N0[/embedyt]
平敷屋(へしきや)エイサー保存会(うるま市)によるエイサー。重厚です。
[embedyt] https://www.youtube.com/watch?v=RVgJmNGRfM0[/embedyt]
字北谷郷友会南ヌ島(ふぇーぬしま)保存会(北谷町)による300年の伝統を持つ南ヌ島。
12年に一度、寅年の8月に行われる大綱引きの前に五穀豊穣、邪気払いなどの願いを込めて行われてきた神への奉納舞踊で、オレンジの髪と独特のかけ声、アクロバティックな動きなど、すべてにおいてインパクト大です。
[embedyt] https://www.youtube.com/watch?v=gOMOYYyfD1I[/embedyt]
瑞雲(ずいうん)同好会・平良町(たいらちょう)青年会による鉦鼓(しょうこ)・旗頭(はたがしら)。腰に巻いたさらしと手で巨大な旗を支え、上下に揺らすスリリングな伝統芸能です。
※倒れてくる危険もゼロではないので、同好会・青年会の方々の指示に従って、離れた場所から見るようにしましょう。また、開始前に爆竹が鳴らされますので轟音にもご注意ください。
[embedyt] https://www.youtube.com/watch?v=wlPmRM-dqys[/embedyt]
詳細情報
開催日時
2018年10月27日(土)~11月3日(土・祝)
※11月1日からの日程は火災によりすべて中止となりましたが、開催予定だったものも含め記載しています。
11月1日 10:30~、13:30~、15:30(各回20分程度)
国王・王妃出御 首里城公園御庭(※要入館料)
11月2・3日 17:00~21:30
万国津梁の灯火 首里城公園及び周辺園路
10月27日~11月1日 11:00~16:30 11月2・3日 11:00~17:30
伝統芸能特別公演 首里城公園下之御庭
10月27日 12:30~14:30
琉球王朝絵巻行列 国際通り
11月1日~3日
琉球泡盛の粋in銭蔵 10:00~16:00
首里城公園銭蔵、首里杜館
11月3日 12:50~15:30
琉球王朝祭り首里「古式行列」
首里城公園奉神門~守礼門~龍潭通り
11月2・3日 18:00~21:00
組踊300周年記念首里城公演・式典「琉球舞踊と組踊」
首里城公園御庭(※要入館料)
参考:2018年首里城祭
入場料
無料 ※有料区域のみ入館料が必要
一般大人830円、高校生630円、小・中学生310円
6歳未満無料、70歳以上の沖縄県民無料(試行中。免許証等持参のこと)
※年間パスポートあり
一般大人1660円、高校生1260円、小・中学生620円
お問い合わせ
首里城祭実行委員会
沖縄県那覇市首里金城町1-2
電話番号:098-886-2020
ホームページ
首里城公園
アクセス
首里城
【車】
那覇空港から車で約50分
カーナビ設定
マップコード
33 161 526*71
駐車場
有料
普通乗用車:最大116台(1台320円)
大型車:最大46台(1台960円)
その他近隣に有料駐車場あり
【那覇空港から公共交通機関を利用して向かう場合】
沖縄都市モノレール「ゆいレール」首里駅下車。徒歩約15分。
もしくは、首里駅前バス停から市内線1・14・17番、または市外線46番に乗車し、首里城公園入口バス停下車。徒歩約5分で守礼門に到着。
首里城下町線7・8番に乗車し、首里城前バス停下車。徒歩1分で守礼門前に到着。
参考:バスマップ沖縄
国際通り てんぶす那覇前(琉球王朝絵巻行列 第5演舞場)
【車】
那覇空港より車で約20分
てんぶす館(那覇市ぶんかテンブス館)
沖縄県那覇市牧志3-2-10
電話番号:098-868-7810
カーナビ設定
マップコード
33 157 418*38
駐車場
有料(最初の1時間まで20分毎100円、その後30分毎100円)
81台
※国際通り周辺にも有料駐車場多数あり。20~30分毎100円程度、18:00頃までの日中上限料金や24時間上限料金を定めたところもあります。
【那覇空港から公共交通機関を利用して向かう場合】
沖縄都市モノレール「ゆいレール」牧志駅下車。徒歩約5分
国際通りでは、毎週日曜日の12:00~18:00まで国際通りトランジットモール(一般車両通行禁止、歩行者優先)が実施され、通常国際通り内を通るバスもほとんどすべての便が迂回ルートに変更されています。
琉球王朝絵巻行列も日曜日に合わせて行われ、また行列終了後は空手の日を記念した演武祭も開催されます。
混雑が予想されますので、ゆいレールがおすすめです。
まとめ
沖縄に何のルーツも持たない私でさえ大きな衝撃と喪失感、悲しみを感じた首里城の焼失。この島に生まれ、身近に見、感じてきた方々、深く関わってこられた方々の悲しみはどれだけ深いものでしょうか。人生をかけて戦火に沈んだ首里城の復元にあたった方々の無念はいかばかりでしょうか。
復元された首里城の、太陽の光に映える朱塗りの美しい姿やライトアップされた幻想的な雰囲気。復元中の様子、戦前・戦後の荒廃した姿。たくさんの方が今も自分の記憶にある首里城を思い描き、心を寄せていることと思います。
焼失から2日後の首里城は、消防車が停まり、放水ホースも残されたままのものものしい雰囲気でした。報道関係者や一目首里城の様子を確かめようとする方々が足を運んでいましたが、正殿へ続く歓会門はぴったりと閉ざされ、その左手には焼け焦げた屋根と柱がのぞいていました。
1453年(王位を巡る争いによる破壊)、1660年、1709年、1945年(第二次世界大戦による破壊)と、4度にわたる破壊や火災による焼失を経験し、そのたびに再建されてきた首里城。
歓会門付近の警備にあたっていた方が、「(正殿・北殿・南殿が焼失した火災のあった)1709年と同じ光景を今見ていることになる」と静かにおっしゃったのがとても心に残りました。
数百年後にいる私たちが同じ光景を見ているということは、火災後、再建されたからにほかなりません。嘆いてばかりはいられない、これからどう再建し、未来へ残していくかを考えなければ。そう聞こえました。
入口にある、こんな碑をご存知でしょうか。
1427年に作られたとされる人工の池、龍潭(りゅうたん)のほとりでは、たくさんの方が立ち止まる光景が日常になりつつあります。
その視線の先にある焼け焦げた真っ黒な柱と崩れた赤瓦が、またもとの姿を取り戻し、美しい景色をまた眺められる日が来るように祈らずにはいられません。
首里城公園に何かできることはないか、お探しの方へ
企業や団体による様々な募金活動やクラウドファンディングなども注目されていますが、首里城公園までダイレクトに心と支援を届ける方法はこちら。
1.芳名帳への記帳
首里杜館(すいむいかん/首里城公園レストセンター)で実施
2.首里城基金
国内外に散逸した首里城関係の文化遺産の収集、復元、公開のために1992年に設置された基金
3. 首里城公園友の会
首里城公園への支援、育成の諸事業の実施と会員相互の親睦を図る会
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